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神皇正統記 / 巻一 地神第一代 天照太神

又天の明玉の神をして、八坂瓊の玉をつくらしめ、天の日鷲の神をして、青幣白幣をつくらしめ、手置帆負・彦狭知の二神をして、大峡小峡の材をきりて瑞の殿をつくらしむ。其物すでにそなはりにしかば、天の香山の五百箇の真賢木をねこじにして、上枝には八坂瓊の玉をとりかけ、中枝には八咫の鏡をとりかけ、下枝には青和幣・白和幣をとりかけ、天の太玉の命をしてさゝげもたらしむ。天の児屋の命をして祈祷せしむ。天の鈿目の命、真辟の葛をかづらにし、蘿葛を手襁にし、竹の葉、飫憇木の葉を手草にし、差鐸の矛をもちて、石窟の前にして俳優をして、相ともにうたひまふ。又庭燎をあきらかにし、常世の長鳴鳥をつどへて、たがひにながなきせしむ。天照太神きこしめして、われこのごろ石窟にかくれをり。葦原の中国はとこやみならん。いか[ん]ぞ、天の鈿女の命かくゑらぐするやとおぼして、御手をもてほそめにあけてみ給。この時に、天手力雄の命と云神磐戸のわきに立給しが、其戸をひきあけて新殿にうつしたてまつる。

書き下し

又天の明玉の神をして、八坂瓊の玉をつくらしめ、天の日鷲の神をして、青幣白幣をつくらしめ、手置帆負・彦狭知の二神をして、大峡小峡の材をきりて瑞の殿をつくらしむ。其物すでにそなはりにしかば、天の香山の五百箇の真賢木をねこじにして、上枝には八坂瓊の玉をとりかけ、中枝には八咫の鏡をとりかけ、下枝には青和幣・白和幣をとりかけ、天の太玉の命をしてさゝげもたらしむ。天の児屋の命をして祈祷せしむ。天の鈿目の命、真辟の葛をかづらにし、蘿葛を手襁にし、竹の葉、飫憇木の葉を手草にし、差鐸の矛をもちて、石窟の前にして俳優をして、相ともにうたひまふ。又庭燎をあきらかにし、常世の長鳴鳥をつどへて、たがひにながなきせしむ。天照太神きこしめして、われこのごろ石窟にかくれをり。葦原の中国はとこやみならん。いかんぞ、天の鈿女の命かくゑらぐするやとおぼして、御手をもてほそめにあけてみ給。この時に、天手力雄の命と云神磐戸のわきに立給しが、其戸をひきあけて新殿にうつしたてまつる。

現代語訳

また天明玉神に八坂瓊の玉を作らせ、天日鷲神に青幣・白幣を作らせ、手置帆負・彦狭知の二神に大峡・小峡の材木を伐らせて瑞の殿を造らせた。それらの物がすっかり備わったので、天の香山の五百箇の真賢木を根ごと掘り取って、上の枝には八坂瓊の玉を掛け、中の枝には八咫の鏡を掛け、下の枝には青和幣・白和幣を掛け、天太玉命に捧げ持たせた。天児屋命に祈祷させた。天鈿女命は真辟の葛を髪飾りにし、蘿葛(ひかげのかずら)をたすきにし、竹の葉や飫憇木(おけ)の葉を手に持つ草とし、鐸をつけた矛を持って、石窟の前で俳優(わざおぎ)をして、ともに歌い舞った。また庭火を明るくたき、常世の長鳴鳥を集めて互いに長鳴きさせた。天照大神はこれをお聞きになって、「私はこのごろ石窟に隠れている。葦原の中つ国は常闇であろう。どうして天鈿女命はこのように笑い楽しんでいるのか」とお思いになって、御手で細めに戸を開けてご覧になった。このときに、天手力雄命という神が磐戸のわきに立っておられたが、その戸を引き開けて、新しい殿にお移し申しあげた。

解説

天の石窟の物語の山場である。親房の記述は、玉を作る神、幣を作る神、殿を建てる神、榊を捧げ持つ神、祈る神、舞う神、戸を開ける神と、役目を一つずつ割り振っていく。天日鷲神や手置帆負・彦狭知の名を挙げるところは『古語拾遺』の書きぶりに近く、祭祀を担った忌部氏の伝えが下敷きにある。ここで作られた玉と鏡が、のちに天孫に授けられる三種の神器となる。つまり神器は、神々が総出で危機を乗り越えたときの道具として生まれたのである。天照大神を動かしたのは、力ずくでも説得でもなかった。外がにぎやかに楽しんでいる気配が、隠れた神の心を動かした。閉じこもった人を連れ出すには、戸をこじ開ける前に、外の世界が明るいことを知らせる必要がある。この物語はそのことをよく伝えている。

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