神皇正統記 / 巻一 序
されどこれは天祖より以来継体たがはずして、たゞ一種ましますこと天竺にも其類なし。彼国の初の民主王も衆のためにえらびたてられしより相続せり。又世くだりては、その種姓もおほくほろぼされて、勢力あれば、下劣の種も国主となり、あまさへ五天竺を統領するやからも有き。震旦又ことさらみだりがはしき国なり。昔世すなほに道ただしかりし時も、賢をえらびてさづくるあとありしにより、一種をさだむる事なし。乱世になるまゝに、力をもちて国をあらそふ。かゝれば民間より出でゝ位に居たるもあり。戎狄より起て国を奪へるもあり。或は累世の臣として其君をしのぎ、つひに譲をえたるもあり。伏犠氏の後、天子の氏姓をかへたる事三十六。乱のはなはだしさ、云にたらざる者哉。
書き下し
されどこれは天祖より以来継体たがはずして、たゞ一種ましますこと天竺にも其類なし。彼国の初の民主王も衆のためにえらびたてられしより相続せり。又世くだりては、その種姓もおほくほろぼされて、勢力あれば、下劣の種も国主となり、あまさへ五天竺を統領するやからも有き。震旦又ことさらみだりがはしき国なり。昔世すなほに道ただしかりし時も、賢をえらびてさづくるあとありしにより、一種をさだむる事なし。乱世になるまゝに、力をもちて国をあらそふ。かゝれば民間より出でゝ位に居たるもあり。戎狄より起て国を奪へるもあり。或は累世の臣として其君をしのぎ、つひに譲をえたるもあり。伏犠氏の後、天子の氏姓をかへたる事三十六。乱のはなはだしさ、云にたらざる者哉。
現代語訳
けれども、天祖以来、継承が外れずにただ一つの血統でおられることは、天竺にもその類がない。あの国の初めの民主王も、衆のために選ばれて立てられてから相続したのである。また世が下っては、その種姓も多く滅ぼされて、勢力があれば下劣な種の者も国主となり、そのうえ五天竺を統べ治める者まであった。震旦はまたとりわけ乱れた国である。昔、世が素直で道が正しかった時でさえ、賢者を選んで位を授けた例があったので、一つの血統を定めることがない。乱世になるにつれて、力をもって国を争う。だから民間から出て位についた者もいる。戎狄(異民族)から起こって国を奪った者もいる。あるいは代々の臣でありながらその君をしのぎ、ついに位を譲り受けた者もいる。伏犠氏の後、天子の氏姓が変わったことは三十六度に及ぶ。乱れのはなはだしさは、言うまでもないものだ。
解説
関連する章句
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『神皇正統記』巻一 神国の名大日本者神国也。天祖はじめて基をひらき、日神ながく統を伝へ給ふ。我国のみ此事あり。異朝には其たぐひなし。此故に神国と云ふ也。
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『神皇正統記』巻一 序七々の火・七々の水災をへて大風災ありて第三禅まで壊す。是を大の三災と云也。第四禅已上は内外の過患あることなし。此四禅の中に五天あり。四は凡夫の住所、一は浄居天とて証果の聖者の住処也。此浄居をすぎて摩醯首羅天王の宮殿あり。色界の最頂に居して大千世界を統領す。其天のひろさ彼世界にわたれり。此上に無色界の天あり。又四地をわかてりといへり。此等の天は小大の災にあはずと云ども、業力に際限ありて報尽なば、退没すべしと見えたり。震旦はことに書契をことゝする国なれども、世界建立を云る事たしかならず。儒書には伏犠氏と云ふ王よりあなたをば云ず。但異書の説に、混沌未分のかたち、天・地・人の初を云るは、神代の起に相似たり。或は又盤古と云王あり。「目は日月となり、毛髪は草木となる。」と云る事もあり。それよりしもつかた、天皇・地皇・人皇・五龍等の諸氏うちつゞきて多くの王あり。其間数万歳をへたりと云ふ。我朝の初は天神の種をうけて世界を建立するすがたは、天竺の説に似たる方もあるにや。
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『神皇正統記』巻一 序此稲米を食せしによりて、身に残穢いできぬ。此故に始て二道あり。男女の相各別にして、つひに婬欲のわざをなす。夫婦となづけ舎宅を構て、共に住き。光音の諸天、後に下生する者女人の胎中にいりて胎生の衆生となる。其後秔稲生ぜず。衆生うれへなげきて、各境をわかち、田種を施しうゑて食とす。他人の田種をさへうばひぬすむ者出来て互にうちあらそふ。是を決する人なかりしかば、衆共にはからひて一人の平等王を立、名て刹帝利と云。 其始の王を民主王と号しき。十善の正法をおこなひて国ををさめしかば、人民是を敬愛す。閻浮提の天下、豊楽安穏にして病患及び大寒熱あることなし。寿命も極て久无量歳なりき。民主の子孫相続して久く君たりしが、漸正法も衰しより寿命も減じて八万四千歳にいたる。身のたけ八丈なり。其間に王ありて転輪の果報を具足せり。先づ天より金輪宝飛降て王の前に現在す。王出で給ことあれば、此輪、転行してもろもろの小王みなむかへて拝す。あへて違者なし。即四大州に主たり。
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『神皇正統記』巻一 この書のこと唯我国のみ天地ひらけし初より今の世の今日に至まで、日嗣をうけ給ことよこしまならず。一種姓の中におきてもおのづから傍より伝へ給しすら猶正にかへる道ありてぞたもちましましける。是しかしながら神明の御誓あらたにして余国にことなるべきいはれなり。抑、神道のことはたやすくあらはさずと云ことあれば、根元をしらざれば猥しき始ともなりぬべし。其つひえをすくはんために聊勒し侍り。神代より正理にてうけ伝へるいはれを述ことを志て、常に聞ゆる事をばのせず。しかれば神皇の正統記とや名け侍べき。
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『神皇正統記』巻一 序神代には豊葦原千五百秋瑞穂国と云ふ。天地開闢の初より此名あり。天祖国常立尊、陽神陰神にさづけ給し勅にきこえたり。天照太神、天孫の尊に譲ましまししにも、此名あれば根本の号なりとはしりぬべし。又は大八州国と云ふ。是は陽神陰神、此国を生給しが、八の嶋なりしによつて名けられたり。又は耶麻土と云ふ。是は大八州の中国の名也。第八にあたるたび、天御虚空豊秋津根別と云神を生給ふ。これを大日本豊秋津州となづく。今は四十八け国にわかてり。中州たりし上に、神武天皇東征より代々の皇都也。よりて其名をとりて、余の七州をもすべて耶麻土と云なるべし。唐にも、周の国より出たりしかば、天下を周と云、漢の地よりおこりたれば、海内を漢と名づけしが如し。耶麻土と云へることは山迹と云也。昔天地わかれて泥のうるほひいまだかわかず、山をのみ往来として其跡おほかりければ山迹と云ふ。或古語に居住を止と云ふ。山に居住せしによりて山止なりとも云へり。
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『神皇正統記』巻四 政みだれぬれば民の賦斂をあつくしてみづからの心をほしきまゝにすることは乱世乱国のもとゐ也。我国は王種のかはることはなけれども、政みだれぬれば、暦数ひさしからず。継体もたがふためし、所々にしるし侍りぬ。いはんや、人臣として其職をまぼるべきにおきてをや。
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