人物志 / 八觀
謙所以下之,下有推與之意。是故,人無賢愚,接之以謙,則無不色懌;是所謂以謙下之則悅也。
新字:謙所以下之,下有推与之意。是故,人無賢愚,接之以謙,則無不色懌;是所謂以謙下之則悦也。
書き下し
謙は之に下る所以にして、下るには推与の意有り。是の故に、人は賢愚と無く、之に接するに謙を以てすれば、則ち色懌ばざる無し。是れ所謂謙を以て之に下れば則ち悦ぶなり。
現代語訳
謙虚とは相手の下に立つことであり、下に立つことには相手を推し立て譲る意味がある。それゆえ、人は賢い者も愚かな者も、謙虚に接してもらえば、顔をほころばせて喜ばない者はいない。これがいわゆる、へりくだって相手の下に立てば喜ぶ、ということである。
解説
八観の第六「情機」のうち、第四の機微「謙を以て下れば悦ぶ」を説明する一節である。人は誰でも勝ちたい、前に立ちたいという情を持つ。だから謙虚に下手に出て相手を推し立てれば、賢愚を問わず誰もが喜ぶ、と劉劭は言う。直前の「自ら誇れば憎まれる」と対になっており、人の情は同じ一つの欲求から、反発にも好意にも動くことが分かる。劉劭は最終篇「釈争」でも、へりくだりと譲りを君子の勝ち方として説いており、この一節はその伏線ともいえる。今の職場でも、正しいことを言っていても誇らしげに言えば反発を招き、同じことを相手を立てながら言えば受け入れられる。謙虚は徳であると同時に、人を動かす実際の技術でもある。
関連する章句
-
人物志・八觀人情は皆勝つを求めんと欲す、故に人の謙なるを悦ぶ。
-
人物志・八觀是の故に、人其の短き所を駮せば、物の之を冒ふが若きに似たり。是れ所謂其の伐る所を駮せば則ち婟(こだわ)るなり。人情は上を陵ぐ者なり。其の悪む所を陵犯するは、憎まると雖も未だ害あらざるなり。若し長を以て短を駮せば、是れ所謂悪を以て婟を犯すにして、則ち妒悪生ず。凡そ此の六機は、其の帰するところ皆上に処らんと欲するなり。是を以て君子は物に接するに、犯さるるも校せず。校せざれば則ち敬下せざる無く、其の害を避くる所以なり。小人は則ち然らず、既に機を見ずして、人の己に順はんことを欲す。佯りの愛敬を以て異とせらると為し、偶々の邀会を以て軽んぜらると為し、苟くも其の機を犯せば、則ち深く以て怨みと為す。是の故に、其の情機を観て、賢鄙の志、得て知るべきなり。何をか其の短き所を観て、以て長ずる所を知ると謂ふ。夫れ偏材の人は、皆短き所有り。故に、
-
人物志・八觀是の故に、其の愛敬の誠を観て、通塞の理、得て知るべきなり。何をか其の情機を観て、以て恕惑を弁ずと謂ふ。夫れ人の情に六機有り。其の欲する所を杼べれば則ち喜び、其の欲する所を杼べざれば則ち悪み、自ら代歴するを以てすれば則ち悪み、謙損を以て之に下れば則ち悦び、其の乏しき所を犯せば則ち婟(こだわ)り、悪を以て婟を犯せば則ち妒む。此れ人性の六機なり。夫れ人情は其の志を遂げんと欲せざるは莫し。故に烈士は奮力の功を楽しみ、善士は督政の訓を楽しみ、能士は治乱の事を楽しみ、術士は計策の謀を楽しみ、弁士は陵訊の辞を楽しみ、貪者は貨財の積を楽しみ、幸者は権勢の尤を楽しむ。苟くも其の志を賛すれば、則ち欣然たらざる莫し。是れ所謂其の欲する所を杼べれば則ち喜ぶなり。若し其の能くする所を杼べざれば、則ち其の志を獲ず。其の志を獲ざれば則ち戚ふ。是の故に、功力建たざれば則ち烈士奮ひ、徳行訓へられざれば則ち正人哀哀たり、政乱れて治まらざれば則ち能者歎歎たり、敵能未だ弭まざれば則ち術人思思たり、貨財積まざれば則ち貪者憂憂たり、権勢尤ならざれば則ち幸者悲しむ。是れ所謂其の能を杼べざれば則ち怨むなり。人情は前に処らんと欲せざるは莫し。故に人の自伐を悪む。自伐は、皆勝たんと欲するの類なり。是の故に、自ら其の善を伐れば則ち悪まざる莫きなり。是れ所謂自ら伐りて之を歴すれば則ち悪むなり。
-
人物志・釋爭卑讓降下は、茂進の遂ぐる路なり。矜奮侵陵は、毀塞の険しき途なり。
-
人物志・釋爭是を以て君子は挙ぐるに敢へて儀準を越えず、志すに敢へて軌等を凌がず。内は己を勤めて以て自ら済し、外は謙譲して以て敬懼す。是を以て怨難身に在らずして、栄福長久に通ずるなり。彼の小人は則ち然らず、功を矜り能を伐り、好んで以て人を陵ぐ。是を以て
-
人物志・八觀故に言を聴き貌を信ずれば、或いは其の真を失ひ、情を詭り反を御すれば、或いは其の賢を失ふ。賢否の察は、実に依る所に在り。是の故に、其の依る所を観て、似類の質、知るべきなり。何をか其の愛敬を観て、以て通塞を知ると謂ふ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る