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史記 / 高祖本紀

欲宮に止まり休舍せんとするも、樊噲・張良諫め、乃ち秦の重宝財物府庫を封じ、軍を霸上に還す。秦人牛羊酒食を持ちて軍士に献饗す。沛公又譲りて受けず、曰、倉粟多く、乏しきに非ず、人に費やさんことを欲せずと。人又益ます喜び、唯だ沛公の秦王と為らざるを恐る。

新字:欲宮に止まり休舎せんとするも、樊噲・張良諫め、乃ち秦の重宝財物府庫を封じ、軍を覇上に還す。秦人牛羊酒食を持ちて軍士に献饗す。沛公又譲りて受けず、曰、倉粟多く、乏しきに非ず、人に費やさんことを欲せずと。人又益ます喜び、唯だ沛公の秦王と為らざるを恐る。

書き下し

宮に止まり休舍せんと欲するも、樊噲・張良諫め、乃ち秦の重宝財物府庫を封じ、軍を霸上に還す。秦人牛羊酒食を持ちて軍士に献饗す。沛公又譲りて受けず、曰く、「倉粟多く、乏しきに非ず、人に費やさんことを欲せず」と。人又益ます喜び、唯だ沛公の秦王と為らざるを恐る。

現代語訳

「勝って手に入れた富や便宜に飛びつかず、自らを律し、人々に負担をかけない」——劉邦の、勝利の後の自制を描いた一段です。咸陽を占領した劉邦は、秦の豪華絢爛な宮殿に入りました。そこには、財宝も、美女も、あらゆる贅沢が、思いのままでした。田舎の出である劉邦は、当初、この宮殿に、そのまま居座って、贅沢を楽しもうとします。しかし、家臣の樊噲と張良が、これを強く諫めました。「今、贅沢に溺れれば、秦の二の舞になります」と。劉邦は、この諫言を聞き入れ、欲望を抑えます。そして、秦の貴重な宝物や財物が納められた蔵を、(手をつけず)そのまま封印し、軍を、(贅沢な宮殿ではなく)もとの霸上へと引き揚げさせたのです。手に入れた富に、飛びつかなかった。さらに、秦の人々が、(劉邦の善政に感謝して)牛や羊、酒や食べ物を持ち寄り、軍を慰労しようとしたときも、劉邦は、これを辞退して、受け取りませんでした。「(我が軍の)倉には、穀物が十分にある。不足しているわけではない。(これ以上、)人々に、負担をかけたくはないのだ(不欲費人)」と。この、勝ってなお驕らず、人々に負担をかけまいとする自制の姿に、秦の人々は、ますます喜び、「どうか、この沛公(劉邦)に、我々の王になってほしい。ならなかったら、どうしよう」とまで、願うようになったのです。ここに、勝利の後の自制についての教訓があります。第一に、勝って手に入れた富や便宜、贅沢に、安易に飛びつかず、自らを律すること。劉邦は、思いのままにできた秦の宝物にも、贅沢にも、手をつけなかった。勝利の直後、欲望のままに振る舞えば、(秦がそうであったように)たちまち身を持ち崩す。第二に、耳の痛い諫言(樊噲・張良の諫め)を、素直に聞き入れる度量。劉邦は、自分が贅沢に溺れかけたとき、家臣の諫めに従って、思いとどまった。第三に、人々の好意(慰労の品)にすら甘えず、その負担を気遣うこと(不欲費人)。勝者が、なお人々に負担をかけまいとする姿が、かえって深い信頼と支持を生む。組織やリーダーの立場で、勝利や成功で得た富や便宜に安易に飛びつかず自らを律すること、耳の痛い諫言を素直に聞き入れること、そして人々の好意にも甘えずその負担を気遣うこと——劉邦の自制は、勝ってなお驕らぬ者が人心を得ることを教えます。

解説

あなたは、勝利や成功で手に入れた富や便宜、贅沢に、安易に飛びついて、自らを律することを忘れていないでしょうか?自分が欲望に溺れかけたとき、耳の痛い諫言や忠告を、素直に聞き入れて、思いとどまることができますか?勝者や成功者として、人々の好意にすら甘えず、その負担を気遣う——そうした自制の姿が、かえって深い信頼と支持を生むと、理解していますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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