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自警録 / 第一章 男一匹・男女両性の接近し競争する傾向

近来、人類の進歩を考うるに、女子の進歩は男子にくらべて速度が早いと思われる。知識上のことはいうまでもなく、その身体のうえにおいてさえも、近時、男子の体格上に起こる変動よりも、女子の体格に起こる変動が多い。 ある学者はかくのごとき有様が続いたならば、世は遠からず蒲柳の美人がなくなるだろうというている。思慮、学問、決断において女子が男子のごとくなれば、身体までも相類似してくる。かくなればもはや男一匹などいうことは決して男子の誇りの言葉でなくなる。昔時の得意を夢み、油断していると、男子はその長所を失うて粗雑な荒くれ男のごときものとなり、さらに一歩を進めて道徳上に退化を来たしたならば、いよいよ一匹の匹が動物的男性なることを示すにいたりはせぬか。 ある人は今後の戦争は女性との対戦ならんといった。もちろんこれは腕力の戦いでなく、経済的の戦いである。この戦いはすでに開始せられ、工場において、学校において、商店において、事務所において、女性は一部男性に代って仕事しつつある。この競争は今後急に終るまいと思うが、今やまた知識上の競争も始まらんとしている。これを思えば男一匹の将来ははなはだ危ぶまるる。この戦争が将来いかに成りゆき、いずれが勝つか、いずれが負けるか、はたまたいずれも勝負なしに円満なる平和をもって解決さるるか、それは未来の事とし、吾人の目下の務めは、男子は男子だけの性質を忌憚なく発揮することにある。 競争とか勝負とかいえば、両性のあいだに利害を異にするように聞こゆるし、また現に経済上の競争においては利害を異にしているが、この利害を異にする関係は永遠に続くものであるか、あるいはまた男女は単に性の相違するのみで、その他の利害はことごとく共通するものではないかという問題も起こってくる。

書き下し

近来、人類の進歩を考うるに、女子の進歩は男子にくらべて速度が早いと思われる。知識上のことはいうまでもなく、その身体のうえにおいてさえも、近時、男子の体格上に起こる変動よりも、女子の体格に起こる変動が多い。 ある学者はかくのごとき有様が続いたならば、世は遠からず蒲柳の美人がなくなるだろうというている。思慮、学問、決断において女子が男子のごとくなれば、身体までも相類似してくる。かくなればもはや男一匹などいうことは決して男子の誇りの言葉でなくなる。昔時の得意を夢み、油断していると、男子はその長所を失うて粗雑な荒くれ男のごときものとなり、さらに一歩を進めて道徳上に退化を来たしたならば、いよいよ一匹の匹が動物的男性なることを示すにいたりはせぬか。 ある人は今後の戦争は女性との対戦ならんといった。もちろんこれは腕力の戦いでなく、経済的の戦いである。この戦いはすでに開始せられ、工場において、学校において、商店において、事務所において、女性は一部男性に代って仕事しつつある。この競争は今後急に終るまいと思うが、今やまた知識上の競争も始まらんとしている。これを思えば男一匹の将来ははなはだ危ぶまるる。この戦争が将来いかに成りゆき、いずれが勝つか、いずれが負けるか、はたまたいずれも勝負なしに円満なる平和をもって解決さるるか、それは未来の事とし、吾人の目下の務めは、男子は男子だけの性質を忌憚なく発揮することにある。 競争とか勝負とかいえば、両性のあいだに利害を異にするように聞こゆるし、また現に経済上の競争においては利害を異にしているが、この利害を異にする関係は永遠に続くものであるか、あるいはまた男女は単に性の相違するのみで、その他の利害はことごとく共通するものではないかという問題も起こってくる。

現代語訳

近ごろ人類の進歩を考えると、女子の進歩は男子に比べて速度が早いと思われます。知識のうえはもちろん、身体のうえでさえ、近ごろは男子の体格に起こる変動よりも、女子の体格に起こる変動のほうが大きい。 ある学者は、こうした有様が続けば、世の中からやがて蒲柳の美人がいなくなるだろうと言っています。思慮、学問、決断において女子が男子のようになれば、身体までもよく似てきます。そうなれば、男一匹などと言うことは、もはや男子の誇りの言葉ではなくなります。昔の得意を夢見て油断していると、男子はその長所を失って、粗雑な荒くれ男のようなものになり、さらに一歩進んで道徳上の退化を来たしたならば、ますます「一匹」の匹が、動物的な男性であることを示すことにはならないでしょうか。 ある人は、今後の戦争は女性との戦いだろうと言いました。もちろんこれは腕力の戦いではなく、経済的な戦いです。この戦いはすでに始まっていて、工場で、学校で、商店で、事務所で、女性は一部の男性に代わって仕事をしています。この競争は今後急には終わらないでしょうが、今や知識上の競争も始まろうとしています。これを思うと、男一匹の将来はたいへん危ぶまれます。この戦争が将来どうなりゆくか、どちらが勝ちどちらが負けるか、あるいは勝負なしに円満な平和で解決されるか、それは未来のこととして、私たちの当面の務めは、男子は男子だけの性質をはばかりなく発揮することにあります。 競争とか勝負とかいえば、男女の間で利害が異なるように聞こえますし、現に経済上の競争では利害が異なっていますが、この利害の異なる関係は永遠に続くものなのか、それとも男女は単に性が違うだけで、そのほかの利害はすべて共通するのではないか、という問題も起こってきます。

解説

女性が工場、学校、商店、事務所で仕事を担い、知識の競争も始まろうとしていると新渡戸は見て、男一匹の将来を案じます。当時の女性の社会進出を、競争と見る視点がここにあります。男女を競争相手とする言い方や、体格が似てくるという説は、時代の限界を示す部分です。一方、現代の職場でも、新しい人材の台頭に対し、安住した古い優位は失われる、というのは変わらない構図です。利害は本当に異なるのかという末尾の問いは、協働の視点を開いています。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

女性の進出競争経済的な戦い男一匹の将来利害変化

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