法句経 / 第四 華の部 五六〜五九 塵芥の中の蓮華
五六 多掲羅や栴檀の香は微小なり、具戒者の香は諸天の間に薰じて比類なし。 五七 戒を具へ、不放逸に住し、正知解脱のものには魔羅便りを得ず。 五八 大道に遺棄せられたる塵芥聚の中に芳香悦意の蓮華生ずる如く、 五九 是の如く塵芥に等しき盲ひたる凡夫の中に正自覺者の弟子は慧明を以て顯はる。
新字:五六 多掲羅や栴檀の香は微小なり、具戒者の香は諸天の間に薫じて比類なし。 五七 戒を具へ、不放逸に住し、正知解脱のものには魔羅便りを得ず。 五八 大道に遺棄せられたる塵芥聚の中に芳香悦意の蓮華生ずる如く、 五九 是の如く塵芥に等しき盲ひたる凡夫の中に正自覚者の弟子は慧明を以て顕はる。
書き下し
五六 多掲羅や栴檀の香は微小なり、具戒者の香は諸天の間に薫じて比類なし。 五七 戒を具へ、不放逸に住し、正知解脱のものには魔羅便りを得ず。 五八 大道に遺棄せられたる塵芥聚の中に芳香悦意の蓮華生ずる如く、 五九 是の如く塵芥に等しき盲ひたる凡夫の中に正自覚者の弟子は慧明を以て顕はる。
現代語訳
多掲羅や栴檀の香りはささやかなものである。戒を具えた人の香りは、神々の間にまで薫って比べるものがない。戒を具え、怠らずにとどまり、正しい智慧によって解脱した人には、魔羅もつけ入る隙がない。大通りに捨てられたごみの山の中から、香り高く心を喜ばせる蓮の花が生じるように、そのように、ごみにも等しい目の見えない凡夫たちの中にあって、正しく目覚めた人(仏)の弟子は、智慧の光によって輝き現れる。
解説
華の部を締めくくる四偈である。五六偈は前の偈の香りの比喩を引き継ぎ、多掲羅や栴檀の香は微小で、具戒者の香は諸天にまで届くという。五七偈は、戒を具え不放逸で正しく解脱した人には、魔羅が「便りを得ず」、つまりつけ入る隙がないとする。五八・五九偈は二偈で一つの比喩をなす。大道に捨てられた塵芥の山から、香り高い蓮華が咲く。蓮が泥から咲くことはよく知られた比喩だが、ここではさらに踏み込んで、往来のごみ捨て場という身近で汚れた場所が選ばれている。凡夫を塵芥に等しいと言い切る厳しさもある。ただ要点は、蓮華がごみの山を離れず、その場で咲くことにある。環境を嘆くより、その場で何を咲かせるかに目を向けさせる比喩である。
関連する章句
-
『法句経』第四 華の部 五三〜五五 善人の香は風に逆ふ五三 諸の華を聚めて多くの華鬘を造り得べきが如く、人と生れたれば多くの善を作すべし。 五四 華の香は風に逆つて薫らず、栴檀も多掲羅も末利迦も亦然り、しかるに善人の香は風に逆つて薫ず、善士は一切の方に薫る。 五五 栴檀又多掲羅将た又青蓮華、跋師吉の其等の香も戒の香に如かじ。
-
『法句経』第四 華の部 四四〜四六 華を摘むが如く四四 誰か此の地を征服す、(誰か)又此の閻魔界と天界とを征服す、誰か善説の寂静への道を摘むこと猶ほ賢き人の華を(摘むが)如くする。 四五 仏教を学ぶ人は(此の)地を征服す、又此の閻魔界と天界とを(征服す)、仏教を学ぶ人は善説の寂静への道を摘むこと猶ほ賢き人の華を(摘むが)如くす。 四六 此の身は水沫の如しと知り、陽炎の如しと覚る人は魔羅の華箭を壊り、死王を覩ることなし。
-
『法句経』第四 華の部 五一・五二五一 可愛の麗はしき華に香なきが如く、善き教の語も実行せざれば其の果なし。 五二 可愛の麗はしき華に香あるが如く、善き教の語は正しく行へば其の果あり。
-
『六祖壇経』懺悔品第六『一に戒香。即ち自心の中に非無く、惡無く、嫉妒無く、貪嗔無く、劫害無き、戒香と名づく。二に定香。即ち諸の善惡の境相を睹るも、自心亂れざる、定香と名づく。三に慧香。自心礙無く、常に智慧を以て、自性を觀照し、諸惡を造らず、眾善を修すと雖も、心執著せず、上を敬ひ下を念ひ、孤貧を矜恤する、慧香と名づく。四に解脫香。即ち自心攀緣する所無く、善を思はず、惡を思はず、自在無礙なる、解脫香と名づく。五に解脫知見香。自心既に攀緣する所も善惡も無くば、空に沉み寂を守るべからず。即ち須らく廣く學び多く聞き、自らの本心を識り、諸佛の理に達し、光を和らげ物に接し、我無く人無く、直ちに菩提に至るまで、真性易はらざる、解脫知見香と名づく』と。
-
『法句経』第四 華の部 四九・五〇四九 蜂が華と色と香とを損ぜずに蜜を取りて飛び去る如く、智者の村に乞食するも亦然るべし。 五〇 他の過失と他の作と不作とを(観るべから)ず、たゞ己の作と不作とを観るべし。
-
『法句経』第二十六 婆羅門の部 四〇一〜四〇三 蓮の葉の上の水四〇一 藕葉の上の水の如く、針端の芥子の如く、欲に染らざる人を我は婆羅門と謂ふ。 四〇二 人あり現世に於てすら己の苦の尽を遍知し、重担を下し、繋を離るれば、我は彼を婆羅門と謂ふ。 四〇三 甚深の慧を具し、聡明に、道非道に通達し、最上義を得たる人を我は婆羅門と謂ふ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る