法句経 / 第四 華の部 五三〜五五 善人の香は風に逆ふ
五三 諸の華を聚めて多くの華鬘を造り得べきが如く、人と生れたれば多くの善を作すべし。 五四 華の香は風に逆つて薰らず、栴檀も多掲羅も末利迦も亦然り、しかるに善人の香は風に逆つて薰ず、善士は一切の方に薰る。 五五 栴檀又多掲羅將た又靑蓮華、跋師吉の其等の香も戒の香に如かじ。
新字:五三 諸の華を聚めて多くの華鬘を造り得べきが如く、人と生れたれば多くの善を作すべし。 五四 華の香は風に逆つて薫らず、栴檀も多掲羅も末利迦も亦然り、しかるに善人の香は風に逆つて薫ず、善士は一切の方に薫る。 五五 栴檀又多掲羅将た又青蓮華、跋師吉の其等の香も戒の香に如かじ。
書き下し
五三 諸の華を聚めて多くの華鬘を造り得べきが如く、人と生れたれば多くの善を作すべし。 五四 華の香は風に逆つて薫らず、栴檀も多掲羅も末利迦も亦然り、しかるに善人の香は風に逆つて薫ず、善士は一切の方に薫る。 五五 栴檀又多掲羅将た又青蓮華、跋師吉の其等の香も戒の香に如かじ。
現代語訳
多くの花を集めて多くの花輪を作ることができるように、人として生まれたからには多くの善をなすべきである。花の香りは風に逆らっては薫らない。栴檀(白檀)も、多掲羅(タガラの香)も、末利迦(香木の一種)もまた同じである。しかし善い人の香りは風に逆らっても薫る。善い人はあらゆる方角に薫る。栴檀、また多掲羅、さらに青蓮華、跋師吉(末利迦の類の香木)、それらの香りも、戒(身を慎む行い)の香りには及ばない。
解説
華の部の中心となる、香りの比喩の三偈である。五三偈は、花を集めて花鬘を作るように、人と生まれたからには多くの善を作せという。荻原の注では、華は一つ一つの善、華鬘はそれを編んで得る来世の善果の喩えとされる。五四偈の着想が鋭い。どんな名香も風上には香らない。栴檀も多掲羅も末利迦もそうである。ところが善人の香りだけは風に逆らって薫り、あらゆる方角に届くという。花の香りは風向きに従うしかないが、人柄の評判は向かい風の中でも伝わっていく。五五偈は名だたる香を並べたうえで、戒の香に及ばないと結ぶ。善い行いは本人が宣伝しなくても、思いがけない方向まで届く。信頼がどこから寄せられるかは、自分では選べないということでもある。
関連する章句
-
『法句経』第四 華の部 五六〜五九 塵芥の中の蓮華五六 多掲羅や栴檀の香は微小なり、具戒者の香は諸天の間に薫じて比類なし。 五七 戒を具へ、不放逸に住し、正知解脱のものには魔羅便りを得ず。 五八 大道に遺棄せられたる塵芥聚の中に芳香悦意の蓮華生ずる如く、 五九 是の如く塵芥に等しき盲ひたる凡夫の中に正自覚者の弟子は慧明を以て顕はる。
-
『法句経』第四 華の部 五一・五二五一 可愛の麗はしき華に香なきが如く、善き教の語も実行せざれば其の果なし。 五二 可愛の麗はしき華に香あるが如く、善き教の語は正しく行へば其の果あり。
-
『法句経』第四 華の部 四九・五〇四九 蜂が華と色と香とを損ぜずに蜜を取りて飛び去る如く、智者の村に乞食するも亦然るべし。 五〇 他の過失と他の作と不作とを(観るべから)ず、たゞ己の作と不作とを観るべし。
-
『法句経』第四 華の部 四四〜四六 華を摘むが如く四四 誰か此の地を征服す、(誰か)又此の閻魔界と天界とを征服す、誰か善説の寂静への道を摘むこと猶ほ賢き人の華を(摘むが)如くする。 四五 仏教を学ぶ人は(此の)地を征服す、又此の閻魔界と天界とを(征服す)、仏教を学ぶ人は善説の寂静への道を摘むこと猶ほ賢き人の華を(摘むが)如くす。 四六 此の身は水沫の如しと知り、陽炎の如しと覚る人は魔羅の華箭を壊り、死王を覩ることなし。
-
『法句経』第九 悪行の部 一二三〜一二五 風に逆らって塵を散らす一二三 財多く伴少なき商侶が危難の道を(避くるが)如く、余生を希ふものが毒を(避くるが)如く、人は悪行を避くべし。 一二四 掌に瘡なくんば手にて毒を採るべし、毒は瘡なきものを害はず、(悪を)作さざる人に悪至らず。 一二五 汚れなき人を誣ゆれば、浄く垢なき人を(誣ゆれば)、殃ひ反つて其の愚者に及ぶ、猶ほ風に逆つて微塵を散すが如し。
-
『法句経』第二十一 雑の部 三〇四・三〇五三〇四 善人は雪山の如く遠処にても顕はる、不善人は近くに在りても見られず、夜に放てる箭の如し。 三〇五 独り一坐一臥を行じて倦まず、独り己を調へ、林の中に(在る如く寂静を)楽むべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る