抱朴子外篇 / 知止
豈覺崇替之相為首尾,哀樂之相為朝暮,肯謝貴盛,乞骸骨,背朱門而反丘園哉!若乃聖明在上,大賢贊事,百揆非我則不敘,兆民非我則不濟,高而不以危為憂,滿而不以溢為慮者,所不論也。
新字:豈覚崇替之相為首尾,哀楽之相為朝暮,肯謝貴盛,乞骸骨,背朱門而反丘園哉!若乃聖明在上,大賢賛事,百揆非我則不敘,兆民非我則不済,高而不以危為憂,満而不以溢為慮者,所不論也。
書き下し
豈に崇替の相い首尾と為り、哀楽の相い朝暮と為るを覚らんや。肯えて貴盛を謝し、骸骨を乞い、朱門に背きて丘園に反らんや。若し乃ち聖明上に在り、大賢事を賛け、百揆は我に非ざれば則ち敘ならず、兆民は我に非ざれば則ち済わず、高くして危うきを以て憂いと為さず、満ちて溢るるを以て慮りと為さざる者は、論ぜざる所なり。
現代語訳
どうして、盛衰が互いに首と尾をなし、哀しみと楽しみが朝と夕のように入れ替わることに気づこうか。進んで貴い地位を辞し、骸骨を乞うて官を去り、朱の門に背いて田園へ帰ろうとするだろうか。もしそれが、聖明の君が上にあり、大賢が政務を助け、百官の務めは自分でなければ整わず、万民は自分でなければ救えず、高い地位にあっても危うさを憂いとせず、満ちていてもあふれることを気にかけないような者であれば、ここで論じる範囲ではない。
解説
知止篇の前半を締める短い一段です。栄華の中にいる者は「崇替の相い首尾と為り、哀楽の相い朝暮と為る」、つまり盛衰が表裏であることに気づかず、自ら辞めることもない、と言います。末尾で、本当に自分でなければ回らない聖明の世の大賢だけは例外として論外に置く、と断っている点が慎重です。引き際の話は誰にでも当てはまるわけではなく、本当に代わりがいない人は別、という留保です。ただ現実には、自分でなければ回らないと思い込んでいるだけのことが多いものです。後継者を置いた時に初めて、その確認ができます。
この章句が説くこと
崇替の相い首尾と為り哀楽の相い朝暮と為る高くして危うきを以て憂いと為さず満ちて溢るるを以て慮りと為さざる盛衰辞任
関連する章句
-
抱朴子外篇・知止吾聞く、熾んなる無くして滅びざるは無く、溢るる靡くして損なわざるは靡く、煥赫は委灰の兆しを有し、春草は秋に瘁むの端となる。日中すれば則ち昃き、月盈つれば則ち蝕く。四時の序は、功を成す者は退く。遠くは諸を物に取れば、高く崇く峻きを構えて限り無きは、則ち頽れ壊るるを惟れ憂う。近くは諸を身に取れば、嘉き膳と旨き酒とを節せざれば、則ち疾を結びて性を傷う。況んや其の高きこと雲霄に概し、積むこと猶お止まず、其の威は人主を震わして崇きを加え、又た息まざる者をや。蚊虻の山より堕つるは、適に翺翔するに足る。兕虎の墜つるは、砕けて齏と為る。此れ大なる物の、所を失うべからざるを言うなり。且つ夫れ色を正して違を弾じ、直道にして行い、幹紀を打撲して、讎隙を慮らざれば、則ち怨み深く恨み積もる。若し法を舍き非を容れ、属托すること響くが如く、剛を吐き柔を茹い、委曲して縄墨すれば、則ち忠は□れ喪敗す。此の地に居る者は、変じて労せざらんや。是を以て身名並び全うする者は甚だ希にして、足を折り食を覆す者は乏しからず。
-
抱朴子外篇・知止抱朴子曰く、禍は足る無きより大なるは莫く、福は知止より厚きは莫し。盈つるを抱き沖に居る者は、必ず全うするの算なり。宴安し盛満なる者は、保ち難きの危うきなり。善巻・巣父・許由・管・胡の徒の若きは、みな雲物を蹈みて以て高く鶩せ、龍鳳に依りて跡を竦め、鋒を韜むを香餌の中に覘い、覆車を来軔の路に寤り、険途を違りて遐く済る。故に能く詹何の釣緡を免る。善く微景を形の外に料り、堅氷を未だ霜ふらざるに覿、薪を徙し突を曲ぐること方に熾んなる火に於いてし、舟を纚ぎ楫を弭むること沖風の前に於いてし、九牛の害を瞻て深く沈み、密蔚を望みて曾ち逝き、巣を葦苕の末に托せず、寝を崩山の崖に偃せざる者と謂う可きなり。斯れ皆器大に量弘く、機を審らかにし致を識り、儕を淩ぎて独り往き、常欲に牽かれず、神は造化に参わり、心は万物を遺る。欲す可きも其の純粋を蠆介すること能わず、理に近きも其の清澄を耗滑すること能わず。苟くも若き人の自然無くんば、誠に絶軌に企及し難し。徒らに功成れば身退くを知らしめ、労に処ること大なる者は賞せられず、狡兎死すれば則ち猟犬の用いられざるを知り、高鳥尽くれば則ち良弓の将に棄てられんとするを覚らしむ。彭・韓の明鏡に鑒みて、簪を抽くの術を念い、越の種の暗機を睹て、則ち金象の貴きを識る。範公の艘を泛べて以て景を絶ち、薛生の乱を遜れて以て潔を全うし、二疏の印を盈つるに方りて投じ、田豫の紱を漏尽に釈くが若きは、進みては亢悔の咎を脱れ、退きては濡尾の吝無く、清風は以て千載の塵を揚ぐるに足り、徳音は以て将来の惑いを祛うに足る。之を陳宝に方ぶれば、亦た邈からずや。
-
抱朴子外篇・知止或いは智小さくして大を謀るに敗れ、或いは轅弱くして重きを載せて折れ、或いは独り是にして衆の非に陥り、或いは忠を尽くして兼会に訐かる。或いは高算を倡えて晁錯の禍を受け、或いは心力を竭くして呉起の害に遭う。故に高きに跼まり厚きに蹐むもの有りて、猶お免れず。公旦の放たれ、仲尼の行き、賈生の下士に遜擯せられ、子長の無辜に熏腎せられ、楽毅の斉を平らげ、伍員の楚を破り、白起の百勝を以て疆を拓き、文子の九術を以て越に覇たらしめ、韓信の功天下に蓋い、黥布の家を滅ぼして以て命を佐くるは、栄えは晷を移さず、辱めは已に及べり。其の禍を避けざるは、豈に智者ならんや。臣たること易からず、豈に一途のみならんや。要して之を言えば、決は主を択ぶに在り。我の頼むに足らざること、其の験は此くの如し。退きを告げて賢に避くれば、潔くして且つ安く、美名と厚実とは、福の大なるは焉より大なるは莫し。能く此の術を修むる者は、万に未だ一有らず。吉凶は人に由る、思う勿かる可けんや。逆耳の言は、之を楽しむ者希にして、献納して栄えを期すれば、将に身の禍を速やかにせんとす。誹謗を救うに其れ暇あらず、何ぞ信受の必す可けんや。
-
抱朴子外篇・知止夫れ矢と繳と紛紜たれば則ち鴛雛は翮を徊らし、坑阱の蹊に充つれば則ち麟虞は跡を斂む。情は極む可からず、欲は満たす可からず、達人は道を以て情を制し、計を以て欲を遣る。謀を為す者すら猶お宜しく忠ならしむべし、況んや自ら策を為して詳らかにせざるをや。蓋し足るを知る者は常に足り、足るを知らざる者は足る無し。常に足る者は福の赴く所、足る無き者は禍の鍾まる所なり。生を生とするの厚きは、殺は哉ち生ず。宋氏の苗を引き、郢人の革を張るは、誠に其の快を欲するも、実は萎え裂くるを速やかにす。進むを知りて退くを忘るとは、斯れの謂いか。夫れ筴は奔りて止まざれば、傾き墜ちざること鮮し。波を淩ぎて休むこと無き者は、沈溺せざること希なり。刃を弄びて息まざるは傷刺の由なり。斫り撃ちて輟めざるは缺毀の原なり。盈つれば則ち損あるは、自然の理にして、周廟の器、豈に我を欺かんや。故に養由の射は、行人の識りて以て弦を馳す。東野の禦は、顔子の其の方に敗れんとするを知る。成功の下は、未だ久しく処り易からず。夫れ酒を飲む者は必ずしも尽く乱れず、而れども乱るる者多し。富貴なる者は豈に其れ皆危うからん、而れども危うき者あり。
-
抱朴子外篇・博喻抱朴子曰く、意を丘園に得る者は、身は否なるも神は泰く、己を役して以て物を恤う者は、形は逸なるも心は労す。故に甕を抱きて園に灌ぐ者は、台宰より歓び、嘔餐して薇を茹らう者は、鼎食より美とし、策に仗りて豳を去る者は、形は月の臘に居るが如く、夜以て旦を待つ者は、勤憂して命を損なう。
-
抱朴子外篇・知止智者は事を倚伏の表に料り、木を伐るに毫末の初めにす。高言を累棋の際に吐かず、治裘を議すること群狐の中にせず。古人の狂を佯り愚を為すは、豈に楽しむ所ならんや。時の宜しく然るべきにして、已むを獲ざればなり。亦た深く逃れて陸に波濤に遭い、幽かに遁れて水に焚焼を被る有り。龔勝の粒を絶ちて以て命を殞とし、李業の煎蹙して鴆を呑むが若きは、跡の朕有り、景の滅びざるに由る。若し行いは氷を蹈むが如く、身は陰に居るが如く、動けども遺蹤の尋ぬ可き無く、静かなれば無為と一と為らしめば、豈に斯の患い有らんや。又た況んや日月を揭げて以て形骸を隠し、建鼓を撃ちて以て利器を徇ぶる者をや。夫れ明時に値えば則ち四海を済うに優れ、険世に遇えば則ち一身を保つに劣るは、此が為に永く慨くは、一士のみに非ず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る