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秘本玉くしげ / 下 金策の功

然るに上役の人人とても、まづさし當りて金銀の手まはりて御用の達するが當分目前の功なる故に、これを賞するから、いづくにても此すぢの役人はすらすらと立身をする事にて、大かた當時は此御勝手をはたらくが第一の政務のやうに成て、金銀を多く得るは敵國を切取たらん如くの功となる所もありとかや、うけ玉はる。抑かやうに當分の御間を合さんためばかりに、君の御威光をも損じ、國政の妨となる事、何に付ても多くは又、下の上を恨み奉ることも甚しく、おのづから上をかろしむるはし共なるは、いといとなげかはしきことなり。然りといへども、まことに御勝手大にさしつまりて當分のまかなひも出來がたき時に於ては、まづ金銀を得るにあらざれば、さしあたりていかにとも作略すべきやうなければ、左樣の時は此働きを重く賞するも理の當然也。又これを働くも時に臨みての大功なれば、全くその人をわろしといふべき事にもあらず。

新字:然るに上役の人人とても、まづさし当りて金銀の手まはりて御用の達するが当分目前の功なる故に、これを賞するから、いづくにても此すぢの役人はすらすらと立身をする事にて、大かた当時は此御勝手をはたらくが第一の政務のやうに成て、金銀を多く得るは敵国を切取たらん如くの功となる所もありとかや、うけ玉はる。抑かやうに当分の御間を合さんためばかりに、君の御威光をも損じ、国政の妨となる事、何に付ても多くは又、下の上を恨み奉ることも甚しく、おのづから上をかろしむるはし共なるは、いといとなげかはしきことなり。然りといへども、まことに御勝手大にさしつまりて当分のまかなひも出来がたき時に於ては、まづ金銀を得るにあらざれば、さしあたりていかにとも作略すべきやうなければ、左様の時は此働きを重く賞するも理の当然也。又これを働くも時に臨みての大功なれば、全くその人をわろしといふべき事にもあらず。

書き下し

然るに上役の人々とても、まづさし当りて金銀の手まはりて御用の達するが当分目前の功なる故に、これを賞するから、いづくにても此すぢの役人はすらすらと立身をする事にて、大かた当時は此御勝手をはたらくが第一の政務のやうに成て、金銀を多く得るは敵国を切取たらん如くの功となる所もありとかや、うけ玉はる。抑かやうに当分の御間を合さんためばかりに、君の御威光をも損じ、国政の妨となる事、何に付ても多くは又、下の上を恨み奉ることも甚しく、おのづから上をかろしむるはし共なるは、いといとなげかはしきことなり。然りといへども、まことに御勝手大にさしつまりて当分のまかなひも出来がたき時に於ては、まづ金銀を得るにあらざれば、さしあたりていかにとも作略すべきやうなければ、左様の時は此働きを重く賞するも理の当然也。又これを働くも時に臨みての大功なれば、全くその人をわろしといふべき事にもあらず。

現代語訳

それなのに上役の人々にしても、まずさしあたって金銀の手回しがついて御用が足りるのが当面目前の功であるために、これを賞するから、どこでもこの筋の役人はすらすらと立身をすることで、おおかた当節はこの御勝手を働くのが第一の政務のようになって、金銀を多く得るのは敵国を切り取ったような功となる所もあるとか伺っている。そもそもこのように当面の間に合わせのためばかりに、主君の御威光をも損じ、国政の妨げとなる事は、何につけても多くはまた、下が上をお恨み申し上げることもはなはだしく、自然と上を軽んじる端ともなるのは、まことに嘆かわしいことである。そうはいっても、本当に御勝手が大いに差し詰まって当面の賄いもできかねる時においては、まず金銀を得なければ、さしあたってどうにも手の打ちようがないので、そのような時はこの働きを重く賞するのも理の当然である。またこれを働くのも時に臨んでの大功であるから、まったくその人を悪いと言うべき事でもない。

解説

金策に長けた勝手方が次々に立身し、金を多く集めるのが敵国を切り取るほどの功とされる。宣長はこの風潮を、主君の威光を損じ、下の恨みを買い、上を軽んじる端をつくるものとして嘆く。ただし一方的には断じない。本当に藩の財政が差し詰まり、当面の賄いもつかないときは、まず金を得るしかなく、その働きを重く賞するのは当然であり、その人を悪いとも言えない、と認める。問題は金策の功そのものではなく、それが平時の第一の政務になってしまうことにある。資金調達の手柄ばかりが出世の道になった組織では、何が見えなくなるか。

この章句が説くこと

金策立身勝手方急場評価

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