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碧巌録 / 第九十六則

達磨曰。諸佛妙道曠劫精勤。難行能行。非忍而忍。豈以小德小智輕心慢心。欲冀真乘。無有是處。二祖聞誨勵。向道益切。潛取利刀。自斷左臂。致于達磨前。磨知是法器。遂問曰。汝立雪斷臂。當為何事。二祖曰。某甲心未安。乞師安心。磨曰。將心來。與汝安。祖曰。覓心了不可得。達磨云。與汝安心竟。後達磨為易其名曰慧可。後接得三祖燦大師。既傳法隱於舒州皖公山。屬後周武帝破滅佛法沙汰僧。師往來太湖縣司空山。居無常處。積十餘載無人知者。宣律師高僧傳。載二祖事不詳。三祖傳云。二祖妙法不傳於世。賴值末後依前悟他當時立雪。所以雪竇道。立雪如未休。何人不雕偽。立雪若未休。足恭謟詐之人皆效之。一時只成雕偽。則是謟詐之徒也。

新字:達磨曰。諸仏妙道曠劫精勤。難行能行。非忍而忍。豈以小徳小智軽心慢心。欲冀真乗。無有是処。二祖聞誨励。向道益切。潜取利刀。自断左臂。致于達磨前。磨知是法器。遂問曰。汝立雪断臂。当為何事。二祖曰。某甲心未安。乞師安心。磨曰。将心来。与汝安。祖曰。覓心了不可得。達磨云。与汝安心竟。後達磨為易其名曰慧可。後接得三祖燦大師。既伝法隠於舒州皖公山。属後周武帝破滅仏法沙汰僧。師往来太湖県司空山。居無常処。積十余載無人知者。宣律師高僧伝。載二祖事不詳。三祖伝云。二祖妙法不伝於世。頼値末後依前悟他当時立雪。所以雪竇道。立雪如未休。何人不雕偽。立雪若未休。足恭謟詐之人皆効之。一時只成雕偽。則是謟詐之徒也。

書き下し

達磨曰く、「諸仏の妙道は、曠劫に精勤し、行じ難きを能く行じ、忍に非ざるを忍ぶ。豈に小徳小智、軽心慢心を以て、真乗を冀はんと欲せんや。是の処有ること無し」。二祖誨励を聞いて、道に向ふこと益々切なり。潜かに利刀を取りて、自ら左臂を断ち、達磨の前に致す。磨是れ法器なることを知り、遂に問うて曰く、「汝雪に立ち臂を断つ、当に何事の為ぞ」。二祖曰く、「某甲心未だ安からず、乞ふ師安心せしめたまへ」。磨曰く、「心を将ち来れ、汝が与に安んぜん」。祖曰く、「心を覓むるに了に不可得なり」。達磨云く、「汝が与に安心し竟んぬ」。後に達磨為に其の名を易へて慧可と曰ふ。後に三祖燦大師を接得す。既に法を伝へて舒州の皖公山に隠る。後周の武帝の仏法を破滅し僧を沙汰するに属ひ、師太湖県の司空山に往来し、居に常処無し。十余載を積むも人の知る者無し。宣律師の高僧伝、二祖の事を載すること詳らかならず。三祖伝に云く、二祖の妙法世に伝はらず、と。末後に依前として他の当時の立雪を悟るに頼値す。所以に雪竇道ふ、雪に立つこと如し未だ休まずんば、何人か雕偽せざらん、と。雪に立つこと若し未だ休まずんば、足恭謟詐の人皆之に効はん。一時に只だ雕偽を成ず。則ち是れ謟詐の徒なり。

現代語訳

達磨は言った。「諸仏の妙なる道は、果てしない時をかけて精進し、行いがたいことを行い、忍びがたいことを忍んで得るものだ。どうして小さな徳、小さな智恵、軽はずみな心、おごった心で真の教えを望もうとするのか。そんなことはありえない」。二祖はこの教えを聞いて、道を求める思いがいよいよ切実になった。ひそかに鋭い刀を取り、自ら左の臂を断ち切って達磨の前に差し出した。達磨は彼が法の器であることを知り、そこで問うた。「お前は雪の中に立ち、臂を断った。いったい何のためか」。二祖は言った。「わたしの心はまだ安らかではありません。どうか師よ、心を安らかにしてください」。達磨は言った。「心を持ってきなさい。お前のために安らかにしてやろう」。二祖は言った。「心を探しましたが、まったく得られません」。達磨は言った。「お前のために心を安らかにし終えた」。のちに達磨は彼の名を改めて慧可とした。その後、慧可は三祖燦大師を導いた。三祖は法を伝えられると舒州の皖公山に隠れた。後周の武帝が仏法を破壊し僧を淘汰した時に当たり、三祖は太湖県の司空山を行き来して、定まった住まいもなかった。十余年を経ても、彼を知る者はいなかった。道宣律師の『高僧伝』は二祖の事を詳しく載せていない。三祖伝には「二祖の妙法は世に伝わらなかった」とある。ただ幸いにも、後の者はなお当時の立雪によって悟ることができる。だから雪竇は「雪の中に立つことがもしやまなかったなら、誰が偽りの飾りをしないでいられようか」と言うのである。雪の中に立つことがもしやまなかったなら、うわべだけ恭しくへつらい偽る者たちがみなこれをまねるだろう。たちまち偽りの飾りばかりになる。それはへつらい偽る輩である。

解説

頌評唱の続きで、圜悟は慧可の断臂と、達磨との「安心」の問答を語る。心を持って来いと言われ、探しても得られないと答えたとき、達磨はすでに安心させ終えたと告げた。この問答は禅の伝灯の起点として名高い。圜悟はさらに三祖への伝法と、廃仏の中で三祖が身を隠した経緯にも触れる。そのうえで雪竇の「立雪如し未だ休まずんば、何人か雕偽せざらん」を解き、立雪の美談がいつまでも語り継がれれば、うわべだけの恭しさで形をまねる者が現れると戒める。献身の姿勢そのものが評価の対象になると偽りの献身が増えるという指摘は、組織の評価制度を考えるうえでも示唆に富む。

この章句が説くこと

安心覓心断臂評唱不安修行

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