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兵要録抄録 / 兵の利害を見極める

夫兵之利害。所其關係者甚偉也。故孫子曰。兵者國之大事。死生之地。存亡之道。不可不察也。凡不得已而用之者義也。義兵者利于民。故國人悅之。天下援之。繇玆軍和而國强。榮傳于子孫。兵之利莫大於斯矣。好而用兵者貪也。貪兵者害于民。故國人苦之。天下疾之。繇玆武黷而國危。災極於子孫。兵之害。莫大於斯矣。此理勢之自然。而義利之辨。不可不察者也。夫兵之有利害於國者。譬如水火之有利害於人也。水火之於人。一日不可無矣。然至失其用。則爲害不可勝言也。兵之利害亦如此。故春秋傳曰。兵猶火也。弗戢將自焚也。蓋用兵之道。或國逆賊起。或鄰國來寇。則擧兵弭暴亂。以除民之憂也。逆賊伏寇退。則戢兵嚴備。以爲國之衞。是用兵之節度也。兵有節度。則利於國者。不可勝言也。無節度。則害於國者。亦不可勝言也。故論兵之利者。先可論兵之害也。若不論其害。而唯〻看其利者。流而爲貪兵。兵貪則攻無過之城。殺無辜之人。簒人之土地。加己之强大。謂之賊也。賊兵一旦雖以力服人。人心離。鬼神禍。而終不見其利矣。

新字:夫兵之利害。所其関係者甚偉也。故孫子曰。兵者国之大事。死生之地。存亡之道。不可不察也。凡不得已而用之者義也。義兵者利于民。故国人悦之。天下援之。繇玆軍和而国強。栄伝于子孫。兵之利莫大於斯矣。好而用兵者貪也。貪兵者害于民。故国人苦之。天下疾之。繇玆武黷而国危。災極於子孫。兵之害。莫大於斯矣。此理勢之自然。而義利之弁。不可不察者也。夫兵之有利害於国者。譬如水火之有利害於人也。水火之於人。一日不可無矣。然至失其用。則為害不可勝言也。兵之利害亦如此。故春秋伝曰。兵猶火也。弗戢将自焚也。蓋用兵之道。或国逆賊起。或鄰国来寇。則挙兵弭暴乱。以除民之憂也。逆賊伏寇退。則戢兵厳備。以為国之衛。是用兵之節度也。兵有節度。則利於国者。不可勝言也。無節度。則害於国者。亦不可勝言也。故論兵之利者。先可論兵之害也。若不論其害。而唯〻看其利者。流而為貪兵。兵貪則攻無過之城。殺無辜之人。簒人之土地。加己之強大。謂之賊也。賊兵一旦雖以力服人。人心離。鬼神禍。而終不見其利矣。

書き下し

夫れ兵の利害は、其の關係する所甚だ偉なり。故に孫子曰く、兵は國の大事、死生の地、存亡の道、察せざるべからずと。凡そ已むを得ずして之を用ゐるは義なり。義兵は民に利あり。故に國人悅び、天下援く。玆に繇りて軍和して國强く、榮え子孫に傳はる。兵の利、斯より大なるは莫し。好みて兵を用ゐるは貪なり。貪兵は民に害あり。故に國人苦しみ、天下疾む。玆に繇りて武黷れて國危く、災ひ子孫に極まる。兵の害、斯より大なるは莫し。此れ理勢の自然にして、義利の辨は察せざるべからざるなり。夫れ兵の國に利害有るは、譬へば水火の人に利害有るが如きなり。水火の人に於けるや、一日も無かるべからず。然れども其の用を失ふに至れば、則ち害言ふに勝ふべからず。兵の利害も亦た此の如し。故に春秋傳に曰く、兵は猶ほ火のごとし、戢めざれば將に自ら焚けんと。蓋し兵を用ゐるの道は、或いは國に逆賊起こり、或いは鄰國來たり寇すれば、則ち兵を擧げて暴亂を弭め、以て民の憂ひを除くなり。逆賊伏し寇退けば、則ち兵を戢めて嚴に備へ、以て國の衞と爲す。是れ兵を用ゐるの節度なり。兵に節度有れば、則ち國に利あること言ふに勝ふべからず。節度無ければ、則ち國に害あること亦た言ふに勝ふべからず。故に兵の利を論ずる者は、先づ兵の害を論ずべし。若し其の害を論ぜずして、唯〻其の利のみを看る者は、流れて貪兵と爲る。兵貪れば則ち無過の城を攻め、無辜の人を殺し、人の土地を簒ひ、己の强大を加ふ。之を賊と謂ふ。賊兵は一旦力を以て人を服すと雖も、人心離れ、鬼神禍ひして、終に其の利を見ず。

現代語訳

兵の利害は、国に関わるところが非常に大きいものです。だから孫子は、戦争は国の大事であり、生死の分かれ目、存亡の道であるから、よく考えなければならない、と言いました。やむを得ず用いるのは義です。義の兵は民に利益があります。だから国の人々は喜び、天下も助けます。そのため軍は和して国は強くなり、栄えは子孫に伝わります。兵の利益としてこれ以上のものはありません。好んで兵を用いるのは貪りです。貪りの兵は民に害をなします。だから国の人々は苦しみ、天下も憎みます。そのため武力は汚れて国は危うくなり、災いは子孫にまで及びます。兵の害としてこれ以上のものはありません。これは理と勢の自然であり、義と利の区別は見極めねばなりません。兵が国に利害をもたらすのは、水や火が人に利害をもたらすのに似ています。水と火は人にとって一日もなくてはならないものですが、用い方を誤れば害は言い尽くせません。兵の利害もこれと同じです。だから『春秋左氏伝』に、兵は火のようなもので、収めなければ自ら焼ける、とあります。兵を用いる道は、国に逆賊が起こったり、隣国が攻めてきたりしたときに兵を挙げて暴乱を鎮め、民の憂いを除くことです。逆賊が降伏し敵が退けば、兵を収めて厳重に備え、国の守りとします。これが兵を用いる節度です。節度があれば国に利することは数えきれず、節度がなければ国に害することもまた数えきれません。ですから兵の利益を論じる者は、まず兵の害を論じるべきです。害を論じず利益だけを見る者は、貪りの兵に流れます。貪りの兵は罪のない城を攻め、罪のない人を殺し、他人の土地を奪い、自分の強大さを増します。これを賊といいます。賊の兵は一時は力で人を従わせても、人心が離れ、天罰が下って、ついに利益を見ることはありません。

解説

兵を水火にたとえ、使い方次第で利にも害にもなると述べる章です。義の兵は国を栄えさせ、貪る兵は子孫まで災いを残す。兵の利を語る前に、まず害を語れという一句が実務的です。春秋伝の兵は火のごとしも引かれます。現代の企業にとっても、資金、権限、攻めの投資は水火に等しい資源です。成長の利益だけを語り、失敗時の害を語らないと、貪りの経営に流れます。新規事業や拡大の決裁では、先に最悪の害を言葉にし、収める基準を決めておく習慣が、組織を守ります。

この章句が説くこと

兵要録兵害利害の弁撤退基準節度春秋左氏伝

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