兵法家伝書 / 活人劔水月
一 水月 附 其影之事 右敵と我との間に凡何尺あれば、敵の太刀我身にあたらぬと云つもりありて、其尺をへだてゝ、兵法を遣ふ此尺のうちへ蹈入りぬすみこみ、敵に近付くを月の水に影をさすにたとへて、水月と云也、心に水月の場を、立あはぬ以前におもひまふけて立あふべし、尺の事は口傳すべし
新字:一 水月 附 其影之事 右敵と我との間に凡何尺あれば、敵の太刀我身にあたらぬと云つもりありて、其尺をへだてゝ、兵法を遣ふ此尺のうちへ蹈入りぬすみこみ、敵に近付くを月の水に影をさすにたとへて、水月と云也、心に水月の場を、立あはぬ以前におもひまふけて立あふべし、尺の事は口伝すべし
書き下し
一 水月 附 其影之事 右敵と我との間に凡何尺あれば、敵の太刀我身にあたらぬと云つもりありて、其尺をへだてゝ、兵法を遣ふ此尺のうちへ蹈入りぬすみこみ、敵に近付くを月の水に影をさすにたとへて、水月と云也、心に水月の場を、立あはぬ以前におもひまふけて立あふべし、尺の事は口傳すべし
現代語訳
一、水月。附、その影のこと。右は、敵とわが間に、およそ何尺あれば敵の太刀がわが身に当たらぬという見積もりがあり、その尺を隔てて兵法を使う。この尺の内へ踏み入り、盗み込んで敵に近づくことを、月が水に影を映すのに譬えて、水月と言う。心に水月の場を、立ち合わぬ以前に思い設けて、立ち合うべきである。尺のことは口伝とすべきである。
解説
この段は、彼我の間合いを論じています。敵の太刀が届かない距離があり、その内側へ踏み込んで近づく動きを、月が水に影を映すことに譬えて「水月」と名づけたものです。立ち合う前に、水月の場を心に思い設けておくべきだとも述べます。尺の具体は口伝として本文に書かれていません。要点は、間合いは相手と自分の双方に成り立つ距離であり、踏み込む瞬間をあらかじめ構想しておくことにあります。商談や交渉でも、相手との距離感と踏み込む時機を事前に考えておく人が、場で迷いません。
この章句が説くこと
水月間合い口伝踏み込み事前準備兵法家伝書
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