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配所残筆 / 配所殘筆20

我等得御意奉り候て、兵學學問御聞被成、我等弟子に御成被成候御方々には、松平越中守をはじめ、右に申候如く別而御崇敬被成候、其外板倉内膳正殿、御老中被爲成候ても、拙者所へ御狀は、拙者名に樣之字御付被成候故、度々御斷申上候得共、不被聞召分候、淺野内匠頭は主人にて候へ共、上々樣へ口切の茶獻上候後、必拙者へ口切之茶肴被給候て令頂戴候、采女殿尚以其通に候、其外之御衆大方上々樣へ御茶被爲進候以後、口切之御茶被下令頂戴候、尤以前御出入仕候大名衆迄私參り候へば、御送迎被遊候て、御門を開候樣彼仰付、御懇惠にて迷惑仕候段御斷申上候得共、左樣にて無之候、私へ御禮とは不被思召候、兵法之禮儀師弟之道にて候由被仰候、然共冥加おそろしく存候て、度々御斷申上候は、凡下之拙者無德之者にて、任御意御指南申上候とても、左樣に被遊候程の御傳授不相成候由、度々御辭退申候得共、侍從四品諸大夫之御方々樣如此次第、天命も恐多候故、せめて自分に驕無之。日夜之勤聊無怠慢候段、此上我等愼と令覺悟候故、此段常々子孫共迄令敎戒候、今年配所に十年有之、唯今者一入天道のとがめを存候て、病中之外雖一日朝寢不仕、不作法成體を不仕候、此段朝夕之儀、下々迄存候事に候、就中磯貝平助殿能存候、以前より如斯心掛候故、益も無之候へ共、我等述作之書物は千卷計有之候、(目錄別に有之候)我等人に勝れ愚に候て、言行不正候、子孫共は愚成我等に十倍勤不申候はば、人間之正義に不可叶被存候、

新字:我等得御意奉り候て、兵学学問御聞被成、我等弟子に御成被成候御方々には、松平越中守をはじめ、右に申候如く別而御崇敬被成候、其外板倉内膳正殿、御老中被為成候ても、拙者所へ御状は、拙者名に様之字御付被成候故、度々御断申上候得共、不被聞召分候、浅野内匠頭は主人にて候へ共、上々様へ口切の茶献上候後、必拙者へ口切之茶肴被給候て令頂戴候、采女殿尚以其通に候、其外之御衆大方上々様へ御茶被為進候以後、口切之御茶被下令頂戴候、尤以前御出入仕候大名衆迄私参り候へば、御送迎被遊候て、御門を開候様彼仰付、御懇恵にて迷惑仕候段御断申上候得共、左様にて無之候、私へ御礼とは不被思召候、兵法之礼儀師弟之道にて候由被仰候、然共冥加おそろしく存候て、度々御断申上候は、凡下之拙者無徳之者にて、任御意御指南申上候とても、左様に被遊候程の御伝授不相成候由、度々御辞退申候得共、侍従四品諸大夫之御方々様如此次第、天命も恐多候故、せめて自分に驕無之。日夜之勤聊無怠慢候段、此上我等慎と令覚悟候故、此段常々子孫共迄令教戒候、今年配所に十年有之、唯今者一入天道のとがめを存候て、病中之外雖一日朝寝不仕、不作法成体を不仕候、此段朝夕之儀、下々迄存候事に候、就中磯貝平助殿能存候、以前より如斯心掛候故、益も無之候へ共、我等述作之書物は千巻計有之候、(目録別に有之候)我等人に勝れ愚に候て、言行不正候、子孫共は愚成我等に十倍勤不申候はば、人間之正義に不可叶被存候、

書き下し

我等得御意奉り候て、兵學學問御聞被成、我等弟子に御成被成候御方々には、松平越中守をはじめ、右に申候如く別而御崇敬被成候、其外板倉内膳正殿、御老中被爲成候ても、拙者所へ御狀は、拙者名に樣之字御付被成候故、度々御斷申上候得共、不被聞召分候、淺野内匠頭は主人にて候へ共、上々樣へ口切の茶獻上候後、必拙者へ口切之茶肴被給候て令頂戴候、采女殿尚以其通に候、其外之御衆大方上々樣へ御茶被爲進候以後、口切之御茶被下令頂戴候、尤以前御出入仕候大名衆迄私參り候へば、御送迎被遊候て、御門を開候樣彼仰付、御懇惠にて迷惑仕候段御斷申上候得共、左樣にて無之候、私へ御禮とは不被思召候、兵法之禮儀師弟之道にて候由被仰候、然共冥加おそろしく存候て、度々御斷申上候は、凡下之拙者無德之者にて、任御意御指南申上候とても、左樣に被遊候程の御傳授不相成候由、度々御辭退申候得共、侍從四品諸大夫之御方々樣如此次第、天命も恐多候故、せめて自分に驕無之。日夜之勤聊無怠慢候段、此上我等愼と令覺悟候故、此段常々子孫共迄令敎戒候、今年配所に十年有之、唯今者一入天道のとがめを存候て、病中之外雖一日朝寢不仕、不作法成體を不仕候、此段朝夕之儀、下々迄存候事に候、就中磯貝平助殿能存候、以前より如斯心掛候故、益も無之候へ共、我等述作之書物は千卷計有之候、(目錄別に有之候)我等人に勝れ愚に候て、言行不正候、子孫共は愚成我等に十倍勤不申候はば、人間之正義に不可叶被存候、

現代語訳

私にお会いになり、兵学や学問をお聞きになって、私の弟子になられた方々には、松平越中守をはじめ、前に申したように、特別にご崇敬いただいております。そのほか、板倉内膳正殿は、御老中になられても、私への書状には私の名に様の字をお付けになるので、たびたびお断りしましたが、聞き入れていただけませんでした。浅野内匠頭は主人ですが、上々様へ口切の茶を献上した後には、必ず私に口切の茶と肴をくださり、頂戴しております。采女殿はなおさらその通りです。そのほかの方々も大方、上々様へ茶を進上された後に、口切の茶をくださり頂戴しております。以前に出入りしていた大名衆のところまで、私が参りますと、送り迎えをなさり、門を開けるよう仰せ付けられ、そのご懇意に迷惑するとお断りしましたが、そうではない、あなたへのお礼とは思っていない、兵法の礼儀であり師弟の道だ、と仰せになりました。しかし冥加を恐ろしく思い、たびたび、凡下の私は無徳の者で、御意のままに指南申し上げても、そのようにされるほどの伝授にはなりません、とお断りしました。侍従・四品・諸大夫の方々がこのような次第で、天命も恐れ多いので、せめて自分に驕りがなく、日夜の勤めに少しも怠慢がないよう、この上は慎むものと覚悟し、このことを常々子孫にまで教え戒めております。今年は配所に十年おり、ただ今はひとしお天道のとがめを思って、病中のほかは一日も朝寝をせず、不作法な様子を見せません。このことは朝夕、下々まで知っていることです。とりわけ磯貝平助殿がよく知っています。以前からこのように心掛けているので、益もないことですが、私の述作の書物は千巻ほどあります。目録は別にあります。私は人に優れて愚かで、言行も正しくありません。子孫たちが、愚かな私の十倍を務めなければ、人間の正義にはかなわないと思います。

解説

この段は、身分の高い大名衆が素行を師として重んじる様子と、それに対する素行の戒めを記しています。老中となった人が書状に様の字を付ける、茶を分けてくれる、門を開けて送迎する、といった厚遇が並びます。大名衆は、それは素行個人への礼ではなく兵法の礼儀、師弟の道だと言います。素行はそれでも冥加を恐れ、自分に驕りがないよう日夜励み、病中のほかは朝寝もしないと述べます。千巻ほどの述作があっても自分を愚かとし、子孫に十倍の勤めを求める点に、高い評価の中でも身を持する姿勢が出ています。現代でも、地位や評価の高まりの中で、日々の習慣を緩めずにいられるかは、管理職の課題です。

この章句が説くこと

驕り慎み師弟朝寝述作配所残筆

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