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配所残筆 / 配所殘筆30

拙者儀凡下無德之者に御坐候而。御歴々樣方の御前へ罷出候體の者には無御坐候得共。若輩之時分より御歴々樣方被懸御目御取持被下候。此段聊私德義故などゝは不奉存候。天道之冥加に相叶候事と奉存候。右之通に御坐候故彌逼塞仕。高田に罷在候御近付衆をもはぶき申。淺野因州公松浦肥州公迄に奉得御意候樣に仕罷在候。其外之御方々へは大方に仕候。然所不慮に配所被仰付。十ヶ年彼地に罷在候。日々老衰仕。罷下候而四年に罷成候。只今者存命仕候而罷在候迄之體に御坐候。今少々餘命御坐候間。何とぞ義理相違不仕候樣に相勤申候而相果申候迄之覺悟に御坐候。右之次第自分之取合に似合申候而如斯書付申候段別而迷惑仕候。此以前被懸御目候御方々皆以御存被成候。就中松浦肥州公能御存之御事候。私配所へ參り候以後十三年に罷成候。其内奉得御意候御方々御死去被成候而。只今殘少に罷成候。然者新敷拙者儀被聞召候御方々樣者。一己獨身之徒者の樣に被思召候へば迷惑仕候間。益も無御坐候儀共如斯書付候へば。事あたらしく御坐候て。如何敷奉存候。以上。 十月十六日 山鹿甚五左衞門 右之通一通合紋二

新字:拙者儀凡下無徳之者に御坐候而。御歴々様方の御前へ罷出候体の者には無御坐候得共。若輩之時分より御歴々様方被懸御目御取持被下候。此段聊私徳義故などゝは不奉存候。天道之冥加に相叶候事と奉存候。右之通に御坐候故弥逼塞仕。高田に罷在候御近付衆をもはぶき申。浅野因州公松浦肥州公迄に奉得御意候様に仕罷在候。其外之御方々へは大方に仕候。然所不慮に配所被仰付。十ヶ年彼地に罷在候。日々老衰仕。罷下候而四年に罷成候。只今者存命仕候而罷在候迄之体に御坐候。今少々余命御坐候間。何とぞ義理相違不仕候様に相勤申候而相果申候迄之覚悟に御坐候。右之次第自分之取合に似合申候而如斯書付申候段別而迷惑仕候。此以前被懸御目候御方々皆以御存被成候。就中松浦肥州公能御存之御事候。私配所へ参り候以後十三年に罷成候。其内奉得御意候御方々御死去被成候而。只今残少に罷成候。然者新敷拙者儀被聞召候御方々様者。一己独身之徒者の様に被思召候へば迷惑仕候間。益も無御坐候儀共如斯書付候へば。事あたらしく御坐候て。如何敷奉存候。以上。 十月十六日 山鹿甚五左衛門 右之通一通合紋二

書き下し

拙者儀凡下無德之者に御坐候而。御歴々樣方の御前へ罷出候體の者には無御坐候得共。若輩之時分より御歴々樣方被懸御目御取持被下候。此段聊私德義故などゝは不奉存候。天道之冥加に相叶候事と奉存候。右之通に御坐候故彌逼塞仕。高田に罷在候御近付衆をもはぶき申。淺野因州公松浦肥州公迄に奉得御意候樣に仕罷在候。其外之御方々へは大方に仕候。然所不慮に配所被仰付。十ヶ年彼地に罷在候。日々老衰仕。罷下候而四年に罷成候。只今者存命仕候而罷在候迄之體に御坐候。今少々餘命御坐候間。何とぞ義理相違不仕候樣に相勤申候而相果申候迄之覺悟に御坐候。右之次第自分之取合に似合申候而如斯書付申候段別而迷惑仕候。此以前被懸御目候御方々皆以御存被成候。就中松浦肥州公能御存之御事候。私配所へ參り候以後十三年に罷成候。其内奉得御意候御方々御死去被成候而。只今殘少に罷成候。然者新敷拙者儀被聞召候御方々樣者。一己獨身之徒者の樣に被思召候へば迷惑仕候間。益も無御坐候儀共如斯書付候へば。事あたらしく御坐候て。如何敷奉存候。以上。 十月十六日 山鹿甚五左衞門 右之通一通合紋二

現代語訳

拙者は凡下で無徳の者でございまして、御歴々の方々の御前に出られるような者ではございませんが、若い時分から御歴々の方々にお目をかけていただき、お取り持ちをいただきました。このことは、少しも私の徳義のゆえなどとは思わず、天道の冥加にかなったことと存じます。右のとおりでございますので、いよいよ逼塞し、高田におります近付きの方々をも省き、浅野因州公・松浦肥州公までにお目にかかるようにしております。そのほかの方々には、おおよその付き合いにとどめております。ところが、思いがけず配所を仰せ付けられ、十年間彼の地におり、日々老衰し、下って四年になります。ただいまは、存命しているだけの有様でございます。もう少し余命がございますので、何とぞ義理に違わないよう勤めて、果てるまでの覚悟でおります。右の次第を、自分の付き合いに似合わないのに、このように書き付けますことは、とりわけ迷惑に存じます。以前からお目にかけてきた方々は、皆ご存じのことです。なかでも松浦肥州公はよくご存じのことです。私が配所へ参ってから十三年になります。そのうちにお目にかかった方々は、お亡くなりになって、ただいまは残り少なくなりました。そうなると、新たに拙者のことをお聞きになる方々が、一人きりの徒者のようにお思いになっては迷惑ですので、益もないことをこのように書き付けますと、事新しく、いかがかと存じます。以上。 十月十六日 山鹿甚五左衛門 右のとおり、一通、合紋二

解説

別の書状の結びです。素行は、若い頃から御歴々に目をかけられたのは自分の徳ではなく天道の冥加だと述べ、ますます逼塞して、交際を浅野因州公・松浦肥州公までに絞っていると言います。配所で十年、戻って四年、今は存命しているだけの身で、残りの余命は義理に違わず勤めて終えるつもりだとします。古い知己が亡くなり、新しく自分のことを聞く人が「独りの徒者」と見なすのを恐れて、あえて益のないことまで書き付けたと断っています。評判を証言してくれる相手が減る中で、自分の経緯を説明しておく大切さを感じさせます。引き立てを実力だけでなく巡り合わせと受け止める謙虚さも読み取れます。

この章句が説くこと

冥加義理引き立て謙虚評判配所残筆

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