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艮斎閑話抄録 / 首になる時まで備える武士の心がけ

古名君の訓に、武道を嗜む士は戰場に赴く時、必死を遂ぐべき心なくては叶はず、白齒なるもの齒の黃にならぬ樣に心懸べし、髮も香を留るがよし、上田宗古も云、武士討死し首になりたる時の事は心懸べきなり、月代の後下りなるは首になる時詫言顏になり見苦しければ、後高に剃たるがよし、剃刀を陣中に持參し物前に月代を剃りて首を奇麗にすべしと、誠に古の勇士の心懸は格別なるものにて、孟子の勇士は不忘喪其元と云所を能自得せしものなり、又鎧より冑をよく鍛ひ華麗にし、首になりたる時、討し人も其冑とりそへて大將の前に出せし時、冑のよろしきは功にもなり、其人の賤しからざるも知るなり、木村長門守戰死して首實檢になりし時、奇香馥郁として座を薰ぜしは、髮の內伽楠の香を留たるなり、誠に壯士の死は心懸よろしく衆人感賞せりとなん、

新字:古名君の訓に、武道を嗜む士は戦場に赴く時、必死を遂ぐべき心なくては叶はず、白歯なるもの歯の黄にならぬ様に心懸べし、髪も香を留るがよし、上田宗古も云、武士討死し首になりたる時の事は心懸べきなり、月代の後下りなるは首になる時詫言顔になり見苦しければ、後高に剃たるがよし、剃刀を陣中に持参し物前に月代を剃りて首を奇麗にすべしと、誠に古の勇士の心懸は格別なるものにて、孟子の勇士は不忘喪其元と云所を能自得せしものなり、又鎧より冑をよく鍛ひ華麗にし、首になりたる時、討し人も其冑とりそへて大将の前に出せし時、冑のよろしきは功にもなり、其人の賤しからざるも知るなり、木村長門守戦死して首実検になりし時、奇香馥郁として座を薫ぜしは、髪の内伽楠の香を留たるなり、誠に壮士の死は心懸よろしく衆人感賞せりとなん、

書き下し

古名君の訓に、武道を嗜む士は戰場に赴く時、必死を遂ぐべき心なくては叶はず、白齒なるもの齒の黃にならぬ樣に心懸べし、髮も香を留るがよし、上田宗古も云、武士討死し首になりたる時の事は心懸べきなり、月代の後下りなるは首になる時詫言顏になり見苦しければ、後高に剃たるがよし、剃刀を陣中に持參し物前に月代を剃りて首を奇麗にすべしと、誠に古の勇士の心懸は格別なるものにて、孟子の勇士は不忘喪其元と云所を能自得せしものなり、又鎧より冑をよく鍛ひ華麗にし、首になりたる時、討し人も其冑とりそへて大將の前に出せし時、冑のよろしきは功にもなり、其人の賤しからざるも知るなり、木村長門守戰死して首實檢になりし時、奇香馥郁として座を薰ぜしは、髮の內伽楠の香を留たるなり、誠に壯士の死は心懸よろしく衆人感賞せりとなん、

現代語訳

古の名君の教えに、武道を嗜む士は戦場へ赴く時、必ず死ぬ覚悟がなくてはならない、白い歯の者は歯が黄色くならないよう心がけよ、髪も香を留めるのがよい、とあります。上田宗古も言いました。武士が討死にして首になった時のことは心がけておくべきだ。月代が後ろ下がりだと、首になった時に詫び言を言う顔になって見苦しいので、後ろ高に剃るのがよい。剃刀を陣中に持参し、戦いの前に月代を剃って、首を綺麗にせよ、と。まことに古の勇士の心がけは格別なもので、孟子の言う「勇士はその首を失うことを忘れない」という所をよく自分のものにしていたのです。また、鎧よりも冑をよく鍛え華麗にしておけば、首になった時、討った人もその冑を添えて大将の前に出すので、冑がよければ手柄にもなり、その人が卑しくない者であることも分かります。木村長門守(重成)が戦死して首実検になった時、奇しい香りが盛んに座を薫らせたのは、髪の内に伽羅の香を留めていたからでした。まことに壮士の死は心がけがよく、人々が感じて賞賛したということです。

解説

死を前提にした身だしなみの話ですが、核心は、最後の場面で見苦しくないよう平素から備える姿勢です。古の武士は首実検まで想像し、歯や髪、冑にまで気を配りました。戦いや死を美化する必要はありませんが、重要な局面で自分がどう見られるかを意識して準備する点は、現代にも通じます。管理職なら、大事な商談、不祥事の説明、人事面談などの場面が当たります。前日に資料と言葉を整え、身なりや態度まで点検しておくと、信頼が変わります。地味な準備を習慣にしたいものです。

この章句が説くこと

艮斎閑話抄録安積艮斎上田宗古木村重成心がけ備え

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