言志四録 / 言志耋録 第二百九十七条 有徳の老人は昏瞶無し
極老人思慮昏瞶。譬猶水影物倒。舟行岸動。不辨彼此。唯有德老人無此昏瞶。以養之有素也。
新字:極老人思慮昏瞶。譬猶水影物倒。舟行岸動。不弁彼此。唯有徳老人無此昏瞶。以養之有素也。
書き下し
極老人は思慮昏瞶す。譬へば猶ほ水に影して物倒れ、舟行きて岸動くがごとく、彼此を弁ぜず。唯だ有徳の老人は此の昏瞶無し。之を養ふこと素有るを以てなり。
現代語訳
非常に年老いた人は、思慮がぼんやりとして乱れる。たとえば、水に映った物の影が逆さまに見え、舟が進むと岸のほうが動いているように見えるようなもので、あちらとこちらの区別がつかなくなる。ただ徳のある老人には、このような思慮の乱れがない。平素から心を養ってきたからである。
解説
年を極めた老人は思慮がぼんやりと乱れ、水に映る影が逆さに見え、舟に乗ると岸が動いて見えるように、物事の主客や前後を取り違えてしまう、と一斎は言います。巧みな比喩で老いの混乱を描いたうえで、しかし徳のある老人にはそれがない、平素から心を養ってきたからだと続けます。老いは避けられなくても、その現れ方は日々の修養によって違ってくるという見方です。前の条で「心志を養ふは養の最なり」と説いたことと響き合います。年齢を重ねてもぶれない判断力は、一朝一夕には手に入りません。今の働き方や学び方が、十年後、二十年後の自分の思考の質をつくっているのだと考えることもできるでしょう。
この章句が説くこと
老い養心徳判断力修養
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