言志四録 / 言志耋録 第二百八十五条 楽を未だ楽しまざるに楽しむ
天道人事。皆以漸至。樂樂於未樂之日。患患於未患之前。則患可免。樂可全。可不省乎。
新字:天道人事。皆以漸至。楽楽於未楽之日。患患於未患之前。則患可免。楽可全。可不省乎。
書き下し
天道人事は、皆漸を以て至る。楽を未だ楽しまざるの日に楽しみ、患を未だ患へざるの前に患ふれば、則ち患免る可く、楽全かる可し。省みざる可けんや。
現代語訳
天の運行も人の世の事柄も、みな少しずつ段階を踏んでやって来る。楽しみは、まだ楽しみが極まらないうちに楽しみ、憂いは、まだ憂いが現れないうちに憂えておけば、憂いは免れることができ、楽しみは全うすることができる。反省しないでよいだろうか。
解説
天の運行も人の世の出来事も、突然やって来るように見えて、実は少しずつ近づいてくる、と一斎は言います。易の坤卦に「霜を履みて堅氷至る」とあるように、兆しのうちに気づけば備えられます。だから憂いは形になる前に憂えておけば免れ、楽しみは極まる前に味わっておけば損なわずにすむ。楽しみを満ちきるまで追えば、かえって崩れを招くという戒めも読み取れます。范仲淹の「天下の憂いに先んじて憂え、天下の楽しみに後れて楽しむ」を思わせる時間感覚です。問題が表面化してからでは打てる手が限られます。小さな兆しに目を配り、順調なときこそ次の備えをしておく姿勢は、組織運営にもそのまま通じるでしょう。
この章句が説くこと
漸兆し先憂後楽備え省察
関連する章句
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『墨子』七患故に食に備粟無ければ、以て凶饑を待つ可からず。庫に備兵無ければ、義有りと雖も、無義を征する能わず。城郭、備え全からざれば、以て自ら守る可からず。心に備慮無ければ、以て卒に應ずる可からず。是の故に慶忌は之を去るの心無くんば、輕々しく出づる能わず。夫れ桀に湯を待つの備無し、故に放たる。紂に武王を待つの備無し、故に殺さる。桀紂は貴きこと天子と為り、富は天下を有つ。然れども皆な百里の君に滅亡せらるるは、何ぞや。富貴有りて備えを為さざればなり。故に備えなる者は、國の重んずる所なり。
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『墨子』公孟子墨子、公孟子に謂いて曰く、「喪禮は、君と父母と妻と後子と死すれば、三年の喪服、伯父・叔父・兄弟は期、族人は五月、姑・姊・甥は皆な數月の喪有り。或いは喪せざるの間を以て、詩三百を誦し、詩三百を歌い、詩三百を舞う。若し子の言を用いば、則ち君子は何れの日を以て聴治せん。庶人は何れの日を以て事に従わん」と。公孟子曰く、「國亂るれば則ち之を治め、治まれば則ち禮樂を為す。國治まれば則ち事に従い、國富めば則ち禮樂を為す」と。子墨子曰く、「國の治まるは、之を治むればなり。治むること廢すれば、則ち國の治まるも亦た廢す。國の富むや、事に従えばなり。事に従うこと廢すれば、則ち國の富むも亦た廢す。故に國を治むと雖も、之を勸めて饜くこと無く、然る後に可なり。今、子曰く、『國治まれば則ち禮樂を為し、亂るれば則ち之を治む』と。是れ譬うれば猶お噎して井を穿ち、死して醫を求むるがごときなり。古者、三代の暴王、桀・紂・幽・厲は、薾に聲樂を為して、其の民を顧みず。是を以て身は刑僇と為り、國は戾虚と為る者は、皆な此の道に従えばなり」と。
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尚書・說命中惟れ事を事とするに、乃ち其れ備え有り、備え有れば患い無し。
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孫子・虚実篇故に前に備うれば則ち後寡なく、後に備うれば則ち前寡なし。左に備うれば則ち右寡なく、右に備うれば則ち左寡なし。備えざる所無ければ、則ち寡なからざる所無し。寡なき者は人に備うる者なり、衆き者は人をして己に備えしむる者なり。
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