言志四録 / 言志耋録 第二百八十六条 敬は終身の孝
人道在敬。敬固爲終身之孝。以我軀爲親之遺也。一息尙存。可忘自敬乎。
新字:人道在敬。敬固為終身之孝。以我躯為親之遺也。一息尚存。可忘自敬乎。
書き下し
人道は敬に在り。敬は固より終身の孝為り。我が躯を以て親の遺と為せばなり。一息尚ほ存せば、自ら敬するを忘る可けんや。
現代語訳
人の道は敬にある。敬はもとより一生を通じての孝行である。自分の体を親が遺してくれたものと考えるからである。一呼吸でもなお命があるかぎり、自分を敬い慎むことを忘れてよいものだろうか。
解説
人の道の要は「敬」にあり、敬とは生涯にわたる孝である、と一斎は言います。その理由は、自分の身体が親の遺したものだから。『孝経』の「身体髪膚、之を父母に受く、敢て毀傷せざるは孝の始めなり」や、『礼記』の「身は父母の遺体なり」を踏まえています。自分を大切にし、慎んで生きることは、自分のためであると同時に親への孝でもあるというのです。「一息尚ほ存せば」の語には、八十を過ぎてなお自らを律しようとする一斎の姿がにじみます。この前後は、敬と養生を結びつける条が続きます。自分の身体や時間を粗末に扱いがちな働き方を振り返るとき、自分を敬うという言葉は一つの手がかりになるでしょう。
この章句が説くこと
敬孝自敬身体人道
関連する章句
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『関聖帝君覚世真経』第二段・天地を敬し、神明を礼す天地を敬し、神明を礼し、祖先を奉じ、双親に孝に、王法を守り、師尊を重んじ、兄弟を愛し、朋友に信あり、宗族に睦まじく、郷隣に和し、夫婦を敬し、子孫を教ふ。
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論語・為政篇子游孝を問う。子曰く、「今の孝者は、是れ能く養うと謂う。犬馬に至るまで、皆能く養うこと有り。敬せずんば、何を以て別たんや。」
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『都鄙問答』卷之一・孝ノ道ヲ問ノ段答ふ、かくのごとき者を、世間並みの人と思ふべけれど、親へつかふる道は、曾て知らざる者なり。汝は書を読みながら、書を読まざる愚昧の者を、法とするゆへに、父母に事ふる道を知らず。昔し公明宣、曾子に学ぶこと三年、書を読まず。曾子曰く、宣、参の門に居ること三年、学ばざるは何ぞや。公明宣曰く、安んぞ敢へて学ばざらん。宣、夫子の庭に居るを見るに、親在せば、叱咤の声未だ嘗て犬馬に至らず。宣之を説びて、学べども未だ能はず、と云へり。曾子の如きは、親の前にては、犬や馬さへ怒りて叱り玉はず。然るに汝は、只養ふを孝と思へり。子曰く、今の孝は是れ能く養ふを謂ふ。犬馬に至るまで皆能く養ふこと有り。敬せずんば何を以て別たんや、と。是の如くなる時は、父母に事ふる道は、愛と敬との二つなり。愛は、いつくしみあいする心なり。敬は、つつしみうやまふ心なり。然るに汝は、父母の命を用ひずして心を痛ましむ。心を痛ましむるは、愛心なきが故なり。命を用ひざるは、敬心なきが故なり。愛敬の心なきは、鳥獣に同じ。汝は世に呼ばるるほどの孝を問ふ。聖賢の孝を聞かんと思はば、早く愛敬の心を知るべし。愛敬の心を知らば、聖賢の孝にも到るべし。
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『都鄙問答』卷之二・鬼神ヲ遠ト云事ヲ問ノ段答、敬して遠くとのたまふは左にはあらず。外神を祭るは、敬慎而已を主とす。此故に、道ならぬ穢き願ひを遠ざけ、又先祖を祭るは孝を主とす。是遠くにあらず。扠敬して遠くとのたまふに、大に取違ひ有ことなり。神は非礼を受玉はず。然れば非礼の願ひを以て近づくを不敬とす。敬ひを遠くとのたまふにはあらず。汝のいへる如くなれば、我朝の神は、願状を籠て、成就に至る時には、願文の通に鳥居を立、或は社の脩覆など致を、敬ひと思われ候や。
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『論語と算盤』教育と情誼・孝は強ふべきものに非ず論語の為政篇中に、「孟武伯孝を問う。子曰く、父母はただその疾をこれ憂う」、また「子游孝を問う。子曰く、今の孝はこれよく養うを謂う。犬馬に至るまで、皆よく養うあり。敬せずんば何をもって別たんや」、なおこの外にもあるごとく、孔夫子は孝道の事についてしばしば説かれている。しかし親から子に対して孝を励めよと強いるのは、かえって子をして不孝の子たらしむるものである。私にも不肖の子女が数人あるが、それがはたして将来いかなるものか、私には解らぬ。私とても子女等に対して、時折「父母はただその疾をこれ憂う」というような事を説き聞かせもする。それでも決して孝を要求し孝を強いるような事は致さぬ事にしている。親は自分の思い方一つで、子を孝行の子にしてもしまえるが、また不孝の子にもしてしまうものである。自分の思う通りにならぬ子を、すべて不孝の子だと思わば、それは大なる間違いで、皆よく親を養うというだけならば、犬や馬のごとき獣類といえども、なおかつこれをよくする。人の子としての孝道は、かく簡単なるものであるまい。親の思う通りにならず、絶えず親の膝下にいて親をよく養うようなことをせぬ子だからとて、それは必ずしも不孝の子でない。
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『慎思録』巻之一聖人の人を教ふるや、人倫を厚くするに在り。人倫を厚くするの道は、人を愛し人を敬するを以て本と為す。是れ愛敬は、人倫を厚くするの道なり。父母に愛敬するは、又其の本なり。幼学の輩を教ふるに、先づ須らく愛敬を以てすべし。夫れ温恭にして自ら虚しくするは、子弟為る者の当に先づ服行すべき所なり。是れ乃ち人倫に接して善を為すの始めなり。
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