言志四録 / 言志耋録 第二百六十九条 明白ならざるを要す
聽訟要明白。又要不明白。要明白。似難郤易。要不明白。似易郤難。總之以仁智兼至爲最緊要。
新字:聴訟要明白。又要不明白。要明白。似難郤易。要不明白。似易郤難。総之以仁智兼至為最緊要。
書き下し
訟を聴くは明白なるを要し、又明白ならざるを要す。明白なるを要するは、難きに似て却って易し。明白ならざるを要するは、易きに似て却って難し。之を総ぶるに、仁智兼ね至るを以て最も緊要と為す。
現代語訳
訴訟を聴くには、事をはっきりさせることが必要であり、またはっきりさせないことも必要である。はっきりさせることは、難しそうに見えてかえってやさしい。はっきりさせないことは、やさしそうに見えてかえって難しい。要するに、仁と智とが兼ね備わることが最も肝要である。
解説
訴えを裁くには、事実を明白にすることが要る一方で、あえて明白にしないことも要る、と一斎は言います。白黒をつけるのは難しそうで実は易しく、あいまいに収めるのは易しそうで実は難しい。すべてを暴き立てれば、当事者の面目がつぶれ、恨みが残り、かえって争いが長引くことがあります。どこまでを明らかにし、どこから先を問わずにおくかを見極めるには、事実を見抜く智と、人を思いやる仁の両方が必要だというのです。前条の「仁以て体と為し、智以て之を察す」を受けた一条でしょう。組織の問題処理でも、真相の究明と関係の修復のどちらを優先するか、その匙加減が問われる場面は少なくありません。
この章句が説くこと
聴訟仁智寛容落としどころ判断
関連する章句
-
『驢鞍橋』卷上卯の夏夜話に曰く、我分別いつとなく失せ、慮知抔と云ふことなし。然る間云ひ損ひも有らんず事ぢやが、出次第に働きて、此年迄来れとも間に合はぬ事無し。総して若き時より無分別なる性也。然れども元より事の談合肝要の時に至ては、何たる分別者よりも我一言に究むる事多し。我もいな事に思ふ也。但しつゝきれて云ふ心か、夫れは元より中中强い位有り、事の談合に及んでは、聞くと早や胸すはつてつゝきれて云はるゝと也。
-
『酔古堂剣掃』集醒・事に任ずる者は利害の慮を忘る事を議する者は身事の外に在り、宜しく利害の情を悉すべし。事に任ずる者は身事の中に居り、當に利害の慮を忘るべし。
-
孫子・地形篇卒を視ること嬰児の如し、故に之と深谿に赴くべし。卒を視ること愛子の如し、故に之と俱に死すべし。厚くして使う能わず、愛して令する能わず、乱れて治むる能わざれば、譬えば驕子の若く、用うべからざるなり。
-
『正法眼蔵随聞記』巻一亦云く、大衆不対の時、我れ南泉ならば、大衆既に道不得と云て、便ち猫児を放下してまじ、古人の云く、大用現前して軌則を存せずと、
-
『囲炉夜話』第二百三則・必ず諸を心に問ふ言は盡くは信ず可からず、必ず諸を理に揆る。事は未だ遽かに行ふ可からず、必ず諸を心に問ふ。
-
『酔古堂剣掃』集醒・多情の者は與に妍媸を定むべからず多情の者は、與に妍媸を定むべからず。多誼の者は、與に取與を定むべからず。多氣の者は、與に雌雄を定むべからず。多興の者は、與に去住を定むべからず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る