言志四録 / 言志耋録 第二百六十五条 競躁の念を忘る
凡在仕途者。多有競躁之念。葢有此念時。必不能晋。至忘此念。則忽然一轉。事物之理皆然。
新字:凡在仕途者。多有競躁之念。葢有此念時。必不能晋。至忘此念。則忽然一転。事物之理皆然。
書き下し
凡そ仕途に在る者は、多く競躁の念有り。蓋し此の念有る時は、必ず晋む能はず。此の念を忘るるに至れば、則ち忽然として一転す。事物の理皆然り。
現代語訳
およそ官途にある者の多くは、人と競い合い、出世を焦る気持ちを持っている。思うに、この気持ちがあるうちは、決して昇進することができない。この気持ちを忘れるに至ると、たちまち局面がひとりでに転じる。物事の道理はみなそうである。
解説
官職にある者は、人と張り合い昇進を焦る「競躁」の念を抱きがちですが、その念があるうちはかえって進めない、と一斎は言います。焦りは言動に表れ、周囲に警戒され、判断も狭くなるからでしょう。ところが、その念を忘れて目の前の務めに打ち込むと、思いがけず道が開ける。一斎はこれを出世の話にとどめず「事物の理皆然り」と広げます。求めるほど遠ざかり、手放したときに向こうからやってくるという逆説は、老荘にも禅にも通じる洞察です。評価や昇進が気になって仕事が手につかないとき、その気持ちがかえって自分の足を引っ張っていないか、振り返る材料になるでしょう。
この章句が説くこと
競躁出世焦り無心仕途
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