言志四録 / 言志晩録 第百六十三条 吏人の言談を厭ふ
吏人相集言談。多是仕進榮辱。貨利損益。吾甚厭。然平日慣聽。不覺偶自冐。可戒。
新字:吏人相集言談。多是仕進栄辱。貨利損益。吾甚厭。然平日慣聴。不覚偶自冐。可戒。
書き下し
吏人相集まりて言談するは、多く是れ仕進の栄辱、貨利の損益なり。吾甚だ厭ふ。然れども平日慣れ聴けば、覚えず偶々自ら冒す。戒むべし。
現代語訳
役人たちが集まって話すことといえば、たいてい出世や左遷の栄誉と恥辱、金銭の損得のことである。私はこれをひどく嫌う。しかし日ごろから聞き慣れていると、知らず知らずのうちにたまたま自分もその話をしてしまう。戒めなければならない。
解説
役人仲間の雑談が、昇進の噂や損得の話ばかりであることを嫌いながら、自分もいつの間にか口にしてしまうと告白した一条です。一斎は他人を批判するだけで終わらず、聞き慣れるうちに自分も染まっていく心の弱さを見つめています。環境の力はそれほど大きく、嫌っているはずのものにも人は馴染んでしまう。八十を過ぎるまで自らを省みる言葉を書きためた一斎らしい、率直な自戒です。職場の雑談が人事や待遇の話に偏ることは今も珍しくありません。それ自体を責めるより、自分の話題や関心がいつの間にか周りの色に染まっていないかに気づくことが大切だと示しています。
この章句が説くこと
自戒環境の影響雑談名利慎独
関連する章句
-
言志四録・言志晩録 第百九十六条 他人をして不好の話を談ぜしむ人有り、自ら不好の話を談ぜずと雖も、而も他人を誘動して談ぜしめ、己は則ち側に在りて、衆と共に聞きて之を快笑し、以て一場の興を取る。太だ徳を失ふと為す。究に自ら不好の話を談ずると一般なり。
-
言志四録・言志耋録 第二百九十条 老衰の爾爾たるのみ余老境懶惰にして、行件都て蕪る。但だ言語飲食の慎みは、諸を少壮に比するに、可なるに庶し。又翻りて思ふに、此れ即ち是れ老衰の爾爾たるのみ。
-
言志四録・言志晩録 第二百六十六条 老人は尤も言を慎むべし老人の話は多く信を取る。尤も宜しく言を慎むべし。
-
言志四録・言志晩録 第百六十九条 我が言語は吾が耳自ら聴く我が言語は、吾が耳自ら聴くべし。我が挙動は、吾が目自ら視るべし。視聴既に心に愧ぢずんば、則ち人も亦必ず服せん。
-
言志四録・言志耋録 第二百五十九条 上官は嗜好を示さず上官たる者は、事物に於て宜しく嗜好無かるべし。一たび嗜好を示さば、人必ず此を以て夤縁す。但だ義を嗜み善を好まば、則ち人の夤縁も亦厭はざるのみ。
-
言志四録・言志耋録 第二百六十四条 公私の弁官署に在りては、言の家事に及ぶを戒め、家に在りては、則ち一も官事を洩らす勿れ。公私の弁は、仕ふる者の大戒なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る