言志四録 / 言志耋録 第二百五十六条 一嚬一笑も仁政の在る所
人或謂人主宜不露喜怒愛憎。余則謂不然。喜怒當節。愛憎得實。則一嚬一咲。亦仁政所在。徒飾外面。不可也。
新字:人或謂人主宜不露喜怒愛憎。余則謂不然。喜怒当節。愛憎得実。則一嚬一咲。亦仁政所在。徒飾外面。不可也。
書き下し
人或いは謂ふ、人主は宜しく喜怒愛憎を露はさざるべしと。余は則ち謂ふ、然らず。喜怒節に当たり、愛憎実を得れば、則ち一嚬一笑も、亦仁政の在る所なり。徒らに外面を飾るは、不可なり。
現代語訳
ある人は、君主は喜怒愛憎を表に出すべきではないと言う。私はそうではないと思う。喜びや怒りが節度にかない、愛憎が実情にかなっていれば、ひとたび眉をひそめ、ひとたび笑うことにも、仁政が宿る。ただ外見を取り繕うだけではいけない。
解説
上に立つ者は感情を表に出すべきではない、という通説に異を唱えた一条です。韓非子などには、君主は好悪を見せると臣下に付け込まれるという考えがあります。一斎はこれを退け、喜怒が節度にかない、愛憎が実情に即していれば、主君が眉をひそめたり笑ったりすることそのものが仁政の表れになると言います。中庸の「発して皆節に中る、之を和と謂ふ」を思わせる考え方で、問題は感情を出すかどうかではなく、それが正しいかどうかにあります。感情を隠して外面を飾るのは、かえって不誠実だというのです。リーダーが感情をどう表すかは、部下にとって大きな手がかりになります。自分の喜びや怒りが的を射ているかを考えさせる一条です。
この章句が説くこと
感情中節誠統率仁政
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