言志四録 / 言志耋録 第百四十四条 天より之を視れば
身勞而心逸者。貧賤也。心苦而身樂者。富貴也。自天視之。兩無得失。
新字:身労而心逸者。貧賤也。心苦而身楽者。富貴也。自天視之。両無得失。
書き下し
身労して心逸なる者は、貧賤なり。心苦しみて身楽なる者は、富貴なり。天より之を視れば、両つながら得失無し。
現代語訳
体は苦労していても心は安らかなのが、貧しく身分の低い者である。心は苦しんでいても体は楽なのが、富み身分の高い者である。天から見れば、どちらにも得も損もない。
解説
前条に続いて貧富を論じ、今度は身と心の苦楽の配分から両者を比べた一条です。貧しい者は体を酷使するが、守るものが少ないぶん心は気楽である。富貴の者は体は楽だが、地位や財産を保つために心を悩ませる。どちらも何かを得て何かを失っており、天の目から見れば差し引きに得失はないと一斎は言います。人の境遇を一段高いところから眺め直す視点です。高い地位に就いた人ほど心労が増えるのは、今の組織でも変わりません。昇進や報酬を得ることで何を引き受けることになるのか、また今の立場で自分が何を得ているのかを、冷静に見直すきっかけを与えてくれる一条です。
この章句が説くこと
貧富苦楽天得失心労
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・天と人と我吉凶禍福は是れ天の主張、毀譽予奪は是れ人の主張、立身行己は是れ我の主張なり。此の三つの者は、相奪はざるなり。
-
『呻吟語』内篇・問學・希天・達天・合天・為天希天の學有り、達天の學有り、合天の學有り、為天の學有り。
-
『墨子』尚同上天下の百姓、皆な天に上同するも、一にして天に上同せざれば、則ち菑、猶お未だ去らざるなり。今、若し天、飄風苦雨、湊湊として至る者は、此れ天の百姓の天に上同せざるを罰する所以の者なり。
-
『後世への最大遺物』第二回・一俵の米は百万の価値があったこうして初めて一俵の米を取った。その人の自伝によりますれば、「米を一俵取ったときの私の喜びは何ともいえなかった。これ天が初めて私に直接に授けたものにして、その一俵は私にとっては百万の価値があった」というてある。それからその方法をだんだん続けまして、二十歳のときに伯父さんの家を辞した。そのときには三、四俵の米を持っておった。それから仕上げた人であります。それでこの人の生涯を初めから終りまで見ますと、「この宇宙というものは実に、天の造ってくださったもので、天というものは実に恩恵の深いもので、人間を助けよう助けようとばかり思っている。それだから、もしわれわれがこの身を天と地とに委ねて天の法則に従っていったならば、われわれは欲せずといえども天がわれわれを助けてくれる」という、こういう考えであります。
-
『墨子』尚同中夫れ既に天子に尚同するも、未だ天に尚同せざる者は、則ち天菑、將に猶お未だ止まざらんとするなり。故に若し天、寒熱を降すこと節ならず、霜雪雨露、時ならず、五榖熟せず六畜遂げず、疾菑戾疫、飄風苦雨、荐臻して至る者は、此れ天の罰を降すなり。將に以て下人の天に尚同せざるを罰せんとするなり。
-
『呻吟語』外篇・天地・故に太清と曰ふ天は積氣の成す所、吾が身より以上は皆な天なり。日月星辰は地を去ること八萬四千里、積氣の中に囿はる。纖隔微礙無く、地を徹して光明なる者は、天氣清きこと甚だしく分毫の渣滓無ければなり。故に太清と曰ふ。然らずんば、薄霧輕煙と雖も、一里の外に見えざるの物有らん。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る