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言志四録 / 言志晩録 別存 第五条 程朱を誹るは思孟を誹るの漸

公嘗擧柴野栗山話曰。物徂徠初在正獻公之門。迨後創新說。亦時時來候。正獻公謂徂徠曰。聞汝近爲異說。漫誹程朱。人各有所見。姑寬假。但誹程朱。則誹思孟之漸也。遂至於此。則決不寬假。戒之戒之。徂徠逡巡無答。正獻公其嚴正而寬大如此。

新字:公嘗挙柴野栗山話曰。物徂徠初在正献公之門。迨後創新説。亦時時来候。正献公謂徂徠曰。聞汝近為異説。漫誹程朱。人各有所見。姑寛仮。但誹程朱。則誹思孟之漸也。遂至於此。則決不寛仮。戒之戒之。徂徠逡巡無答。正献公其厳正而寛大如此。

書き下し

公嘗て柴野栗山の話を挙げて曰く、「物徂徠初め正献公の門に在り。後に新説を創むるに迨びても、亦時時来り候す。正献公徂徠に謂ひて曰く、『聞く、汝近ごろ異説を為し、漫に程朱を誹ると。人各々見る所有り、姑く寛仮せん。但だ程朱を誹るは、則ち思孟を誹るの漸なり。遂に此に至らば、則ち決して寛仮せず。之を戒めよ、之を戒めよ』と。徂徠逡巡して答ふる無し。正献公の其の厳正にして寛大なること此くの如し」と。

現代語訳

公(林述斎)はかつて柴野栗山から聞いた話を挙げて言った。「荻生徂徠は初め正献公(林鳳岡)の門下にいた。のちに新しい学説を唱えるようになってからも、時々は訪ねて来て挨拶していた。正献公は徂徠に言った。『聞けばお前は近ごろ異説を唱え、みだりに程子・朱子をそしっているそうだな。人にはそれぞれ見解があるから、しばらくは大目に見よう。しかし程朱をそしることは、子思・孟子をそしることへ進む第一歩である。もしそこまで行ったなら、決して許さない。よくよく戒めよ』。徂徠はためらって答えなかった。正献公の、厳正でありながら寛大であることは、このようであった」。

解説

林家三代目の大学頭・林鳳岡(諡は正献)と荻生徂徠の逸話を、述斎が柴野栗山から聞いて語ったものです。徂徠は朱子学を批判して古文辞学を興した人物ですが、鳳岡は、人にはそれぞれの見解があるとして程朱批判はひとまず大目に見る一方、それが子思・孟子への批判にまで進むなら決して許さないと釘を刺しました。一斎はこれを「厳正にして寛大」と評しています。どこまでを許し、どこからは譲らないかという線をはっきり示したうえで相手を受け入れる態度です。異論を持つ部下や後輩に向き合うとき、何を許容し何を越えてはならない一線とするかを、自分の言葉で示せているかを考えさせる話です。

この章句が説くこと

寛厳異説一線師弟学統

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