言志四録 / 言志晩録 第二百四十七条 恩を売る勿れ
勿賣恩。賣恩卻惹怨。勿干譽。干譽輙招毀。
新字:勿売恩。売恩却惹怨。勿干誉。干誉輙招毀。
書き下し
恩を売ること勿れ。恩を売れば却って怨みを惹く。誉れを干むること勿れ。誉れを干むれば輙ち毀りを招く。
現代語訳
恩を売ってはならない。恩を売れば、かえって怨みを引き起こす。名誉を求めてはならない。名誉を求めれば、たちまち悪口を招く。
解説
良かれと思って求めたことが、正反対の結果を招くという二つの逆説を並べた一条です。恩を売る、つまり相手に恩を着せようとすると、相手は感謝よりも負い目や反発を感じ、やがて怨みに変わります。誉れを求めて自分を売り込むと、周囲はその下心を見抜き、かえって悪口が生まれます。恩も誉れも、求めずに自然に生まれたときだけ本物になるのです。先に、善いことをして人に知られたいと思うのは矜心だとした条とも通じ、行いの動機を問う一斎の一貫した視点が見えます。部下や取引先に便宜を図ったとき、それを見返りの材料にしていないか。自分の実績を語りすぎていないか。人間関係のもつれの原因を、自分の側から見直すきっかけになります。
この章句が説くこと
恩名誉動機人間関係謙虚
関連する章句
-
言志四録・言志晩録 第二百十八条 学は心事合一を要す学は須らく心事合一なるを要すべし。吾一の好事を做し、自ら以て好しと為し、因りて人の其の好きを知らんことを要す。是れ即ち矜心除かれず、便ち是れ心事合一ならざるなり。
-
言志四録・言志耋録 第百六十九条 恵を受けては忘るべからず我恩を人に施すは、忘るべし。我恵を人に受くるは、忘るべからず。
-
『墨子』非命下是の故に子墨子曰く、今、天下の君子の文章を為り言談を出だすは、将に其の頰舌を勤勞し、其の唇呡を利せんとするに非ざるなり。中に實に将に其の國家邑里萬民の刑政を為さんと欲する者なり。今や王公大人の早く朝し晏く退き、獄を聴き政を治め、終朝、均しく分かちて敢えて怠倦せざる所以の者は、何ぞや。曰く、彼れ以為えらく强ければ必ず治まり、强からざれば必ず亂れ、强ければ必ず寕く、强からざれば必ず危うしと。故に敢えて怠倦せず。
-
論語・憲問篇微生畝、孔子に謂いて曰く、「丘、何為れぞ是れ栖栖たる者ぞ。乃ち佞を為すこと無からんや。」孔子曰く、「敢えて佞を為すに非ざるなり、固を疾むなり。」
-
『墨子』非攻下則ち夫の攻伐を好むの君、又た其の説を飾りて曰く、我れ金玉子女壤地を以て足らずと為すに非ざるなり。我れ義の名を以て天下に立て、徳を以て諸侯を來さんと欲するなり、と。子墨子曰く、今、若し能く義の名を以て天下に立て、徳を以て諸侯を來す者有らば、天下の服すること立ちどころに待つ可きなり。夫れ天下、攻伐に處ること久し。譬うるに猶お傅子の馬を為るが然り。
-
司馬法・嚴位凡そ人は、愛に死し、怒りに死し、威に死し、義に死し、利に死す。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る