言志四録 / 言志晩録 第二百三十六条 退歩の工夫は尤も難し
銳進工夫。固不易。退步工夫。尤難。惟有識者庶幾焉。
新字:鋭進工夫。固不易。退歩工夫。尤難。惟有識者庶幾焉。
書き下し
鋭進の工夫は、固より易からず。退歩の工夫は、尤も難し。惟だ識有る者のみ庶幾からん。
現代語訳
鋭く前進する工夫は、もとより容易ではない。一歩退く工夫は、なおさら難しい。ただ見識のある者だけが、これに近づくことができるであろう。
解説
勢いよく進むことも難しいが、退くことはもっと難しいと一斎は言います。『孟子』には「其の進むこと鋭き者は、其の退くこと速やかなり」とあり、勢いだけで進む者は崩れるのも早いと戒めています。退歩の工夫とは、単に後ろに下がることではなく、時勢や自分の力量を見極め、身を引くべき時に引くこと、あるいは得意の絶頂で一歩控えることです。一斎は『言志録』でも「得意の時候は最も当に退歩の工夫を著くべし」と述べています。前に進む力は意欲から生まれますが、退く判断には全体を見通す見識が要ります。撤退の判断が遅れて傷を広げる事業の例は多くあります。進むことばかりを評価していないか、退く勇気と見識を問う一条です。
この章句が説くこと
退歩見識引き際判断進退
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