言志四録 / 言志晩録 第百九十条 富人を羨む勿れ
勿羨富人。渠今之富。安知其不招後之貧。勿侮貧人。渠今之貧。安知其不胎後之富。畢竟天定。各安其分。可也。
書き下し
富人を羨むこと勿れ。渠が今の富は、安んぞ其の後の貧を招かざるを知らんや。貧人を侮ること勿れ。渠が今の貧は、安んぞ其の後の富を胎せざるを知らんや。畢竟天定なり。各其の分に安んじて可なり。
現代語訳
金持ちを羨んではならない。その人の今の富が、後の貧しさを招かないとどうして分かろうか。貧しい人を侮ってはならない。その人の今の貧しさが、後の富を宿していないとどうして分かろうか。結局は天が定めることである。めいめいが自分の分に安んじていればよいのである。
解説
貧富を固定したものと見ず、時の流れの中でとらえた条です。今の富は驕りや油断を生んで後の貧を招くかもしれず、今の貧は努力や倹約を育てて後の富を宿しているかもしれません。「胎す」という語が、貧しさの中に富の芽が育つ様子をよく表しています。だから羨むのも侮るのも見当違いであり、結局は天の定めに委ねて各自の分に安んじればよい、と一斎は結びます。分に安んじるとは諦めることではなく、他人と比べて心を乱さず、自分の持ち場に力を注ぐことでしょう。次の条でも同じ主題が続きます。他人の成功や報酬と自分を比べて落ち着かなくなるとき、見えている今は一時の姿にすぎないと気づかせてくれる言葉です。
この章句が説くこと
貧富安分嫉妬天命盛衰
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