言志四録 / 言志晩録 第百五十二条 阪路を攀づるが如し
居官者。事未到手。如攀阪路。步步艱難。卻無蹉跌。事既到手。如下阪路。步步容易。輙致顚躋。
新字:居官者。事未到手。如攀阪路。歩歩艱難。却無蹉跌。事既到手。如下阪路。歩歩容易。輙致顛躋。
書き下し
官に居る者は、事未だ手に到らざるときは、阪路を攀づるが如く、歩歩艱難なれども、却って蹉跌無し。事既に手に到れば、阪路を下るが如く、歩歩容易なれども、輙ち顛躋を致す。
現代語訳
官職にある者は、仕事がまだ手に慣れないうちは、坂道をよじ登るようなもので、一歩一歩が苦しいが、かえってつまずくことがない。仕事がすっかり手に慣れてしまうと、坂道を下るようなもので、一歩一歩が楽であるが、すぐに転げ落ちることになる。
解説
仕事の慣れを、坂の上り下りにたとえた一条です。不慣れなうちは坂を登るように一歩ずつが苦しいけれど、慎重に足を運ぶのでかえってつまずかない。慣れてしまえば下り坂のように楽に進めるが、その楽さゆえに油断して転ぶ。実感のこもった比喩です。慣れが緊張を奪い、緊張の欠如が失敗を招くことは、誰もが経験から知っています。後の条で一斎が長官に「小心翼翼を忘るること勿れ」と説くのも、同じ戒めでしょう。経験を積んで仕事が楽になったと感じるときこそ、確認を省いていないか、前提を疑わなくなっていないかを点検する時期なのかもしれません。熟練と油断の境目を考えさせる一条です。
この章句が説くこと
慣れ油断慎重熟練戒慎
関連する章句
-
『墨子』貴義子墨子曰く、今、士の身を用うるは、商人の一布を用うるの慎しみに若かざるなり。商人、一布を用うるに、敢えて茍くも繼ぎて讎らず、必ず良き者を擇ぶ。今、士の身を用うるは則ち然らず。意の欲する所は則ち之を為す。厚き者は刑罰に入り、薄き者は毁醜を被る。則ち士の身を用うるは、商人の一布を用うるの慎しみに若かざるなり。
-
『囲炉夜話』第六十八則・好事の人は必ず曉事の人に非ず古今の為す有るの士は、皆な輕がろしく為さざるの士なり。鄉黨の事を好むの人は、必ず事に曉るの人に非ず。
-
論語・為政篇子張禄を干(もと)むを学ぶ。子曰く、多く聞いて疑わしきを闕(か)き、其の余を慎言すれば、則ち尤(とがめ)寡なし。多く見て殆(あやう)きを闕き、其の余を慎行すれば、則ち悔寡なし。言に尤寡なく、行に悔寡なければ、禄は其の中に在り。
-
論語・述而篇子の慎む所は、斉・戦・疾なり。
-
『呻吟語』内篇・修身・再び一步を思へば更に好し事の心下に放ち得るに到るも、還た一たび慎むも何ぞ妨げん。言の來たりて口邊に向かふも、再び一步を思へば更に好し。
-
『酔古堂剣掃』集法・平地を履みて恐る君子は青天に對して懼れ、雷霆を聞きて驚かず。平地を履みて恐れ、風波を涉りて疑はず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る