言志四録 / 言志晩録 第百三十条 苛細を除き簡浄に帰す
歷代開國之初。人人自靖。治務太間。昇平日久。則上自臺閣。下至諸局。規則完備。簿書累堆。愈久愈多。於是瑣末式法。不勝繁蕪。亦勢之必至。此時唯當以務除苛細。歸諸簡淨爲要。平世著眼處葢在此。
新字:歴代開国之初。人人自靖。治務太間。昇平日久。則上自台閣。下至諸局。規則完備。簿書累堆。愈久愈多。於是瑣末式法。不勝繁蕪。亦勢之必至。此時唯当以務除苛細。帰諸簡浄為要。平世著眼処葢在此。
書き下し
歴代開国の初めは、人人自ら靖んじ、治務太だ間なり。昇平日久しければ、則ち上は台閣より、下は諸局に至るまで、規則完備し、簿書累堆し、愈々久しくして愈々多し。是に於て瑣末の式法、繁蕪に勝へず。亦勢の必至なり。此の時唯だ当に務めて苛細を除き、諸を簡浄に帰するを以て要と為すべし。平世の著眼の処、蓋し此に在り。
現代語訳
歴代の王朝が国を開いた当初は、人々がみな自ら安らかに治まっていて、政務はきわめて簡素でゆとりがある。ところが太平の世が長く続くと、上は政府の中枢から下は諸々の役所に至るまで、規則が細かく完備し、帳簿や文書が積み重なり、時が経つほどますます多くなる。こうして細々とした形式や手続きが、煩雑すぎて手に負えなくなる。これもまた時勢の必然である。このような時には、ひたすら煩わしく細かいものを取り除き、すべてを簡潔で清らかなものに戻すことを要としなければならない。平和な世の政治で着眼すべきところは、おそらくここにある。
解説
太平が長く続くと、規則と書類が増え続け、ついには煩雑さに押しつぶされる。一斎はこれを時勢の必然と見たうえで、だからこそ意識して苛細を取り除き、簡浄に戻すことが平時の政治の要だと言います。二百年を超える泰平の中で、幕府の役所の文書行政が膨らんでいく様子を、昌平坂学問所の儒官として間近に見ていたのでしょう。後の条で「専ら簿書に任せて心と為すこと勿れ」と説くのも同じ問題意識です。規則は一つ一つはもっともな理由で作られますが、足し算だけでは必ず重くなります。組織が成熟して手続きが増えたとき、定期的に削ることを仕事として意識しているかを考えさせる一条です。
この章句が説くこと
簡素規則官僚化為政平時の心得
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