言志四録 / 言志録 第百六条 無用の人事の用処
凡年間人事萬端。算來十中七無用。但人處平世。心無所寄。則間居爲不善亦不少。今連貴賤男女。率爲無用纒綿驅役以涉日。則念及不善者或少矣。此亦其用處。葢治安世界不得不然。亦理勢也。
新字:凡年間人事万端。算来十中七無用。但人処平世。心無所寄。則間居為不善亦不少。今連貴賤男女。率為無用纒綿駆役以渉日。則念及不善者或少矣。此亦其用処。葢治安世界不得不然。亦理勢也。
書き下し
凡そ年間の人事万端、算へ来れば十中七は無用なり。但だ人平世に処りて、心寄する所無ければ、則ち間居して不善を為すも亦少なからず。今貴賤男女を連ねて、率ね無用の為に纏綿駆役せられて以て日を渉れば、則ち念の不善に及ぶ者或は少なからん。此れ亦其の用処なり。蓋し治安の世界、然らざるを得ず。亦理勢なり。
現代語訳
およそ一年の間の世間のさまざまな事柄は、数えてみれば十のうち七までは無用のものである。しかし人は平和な世に暮らしていて、心を寄せるところがないと、暇をもてあまして良くないことをする者も少なくない。いま身分の高い者も低い者も、男も女も、おおむね無用な事柄にまとわりつかれ追い立てられて日々を過ごしているので、良くないことに思いが及ぶ者はかえって少ないのであろう。これもまた無用な事柄の効用である。思うに、治まって安らかな世の中では、そうならざるをえない。これもまた道理と成り行きである。
解説
前条の「無用の事無し」を受けて、無用に見える人事の具体的な効用を述べた一条です。年中行事や儀礼、付き合いなど、世の営みの七割は無用だと一斎は認めます。そのうえで、泰平の世に人が手持ち無沙汰になれば、『大学』に言う「小人間居して不善を為す」ことになりかねないと指摘します。身分や男女を問わず無用の用事に追われていることが、かえって人を悪念から遠ざけているというのです。江戸の長い泰平を生きた一斎の、皮肉を含んだ現実的な観察と言えます。職場の雑務や慣例を削るとき、それが人と人をつなぎ、場を保っている働きまで失われないかを考えてみる手がかりになります。
この章句が説くこと
無用の用理勢閑居泰平人事
関連する章句
-
論語・為政篇哀公問いて曰く、「何を為さば則ち民服せん。」孔子対えて曰く、「直きを挙げて諸(これ)を枉れるに錯(お)かば、則ち民服せん。枉れるを挙げて諸を直きに錯かば、則ち民服せず。」
-
『韓非子』説疑第四十四其の臣の意行を知らずして、之に任ずるに国を以てす、故に小なるは之れ名卑しく地削られ、大なるは之れ国亡び身死す、臣を用ふるに明らかならざればなり。
-
論語・公冶長篇孟武伯問う、「子路は仁なりや。」子曰く、「知らざるなり。」又問う。子曰く、「由や、千乗の国、其の賦を治めしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」「求や何如。」子曰く、「求や、千室の邑、百乗の家、之が宰たらしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」「赤や何如。」子曰く、「赤や、束帯して朝に立ち、賓客と言わしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」
-
『韓非子』亡徵第十五官職、重を以て求むべく、爵禄、貨を以て得べき者は、亡ぶべきなり。
-
『韓非子』説疑第四十四聖王明君は則ち然らず、内挙は親を避けず、外挙は讎を避けず。是焉に在れば、従ひて之を挙げ、非焉に在れば、
-
『韓非子』顯學第五十故に士を舉げて賢智を求め、政を爲して民に適ふを期するは、皆亂の端にして、未だ與に治を爲すべからざるなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る