言志四録 / 言志晩録 第百二十一条 乗数と除数
擧賢才。則百僚振。矜不能。則衆人勸。乘數也。猜大臣。則讒慝興。疏親戚。則物情乖。除數也。須能愼幾先以慮來後。
新字:挙賢才。則百僚振。矜不能。則衆人勧。乗数也。猜大臣。則讒慝興。疏親戚。則物情乖。除数也。須能慎幾先以慮来後。
書き下し
賢才を挙ぐれば、則ち百僚振ふ。不能を矜めば、則ち衆人勧む。乗数なり。大臣を猜めば、則ち讒慝興る。親戚を疏んずれば、則ち物情乖く。除数なり。須らく能く幾先を慎みて以て来後を慮るべし。
現代語訳
賢く才能のある人を登用すれば、多くの役人が奮い立つ。能力の足りない者をあわれみいたわれば、人々は励む。これは掛け算(乗数)のように効果が増していくはたらきである。大臣を疑えば、讒言や悪事が起こる。親族を疎んじれば、人々の心が離れる。これは割り算(除数)のように減っていくはたらきである。物事の兆しが現れる前に慎んで、先々のことを考えなければならない。
解説
人事の効果を「乗数」と「除数」、掛け算と割り算にたとえた条でで、数の比喩が鮮やかです。賢才を登用し、力の足りない者をいたわれば、その効果は一人にとどまらず組織全体に掛け算で広がります。『論語』子張篇の「善を嘉して不能を矜む」が踏まえられています。逆に、重臣を疑い、身内を疎んじれば、讒言がはびこり人心が離れ、割り算のように組織の力が削られていく。だから兆しが現れる前に慎み、先々を慮れと結びます。人事の一つの判断が、当人だけでなく周囲の意欲や信頼を増幅も減衰もさせるという指摘は、今日の組織にもそのまま当てはまります。自分の判断がどちらの数として働いているか、考えさせる一条です。
この章句が説くこと
人事登用信頼為政先見
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