言志四録 / 言志晩録 第百四条 実を避けて虚を擣つ
敵在背後。兵家之所忌。避實擣虛。兵家之所好。地利得失。防禦形勢。宜以此致察。
新字:敵在背後。兵家之所忌。避実擣虚。兵家之所好。地利得失。防禦形勢。宜以此致察。
書き下し
敵の背後に在るは、兵家の忌む所なり。実を避けて虚を擣つは、兵家の好む所なり。地利の得失、防禦の形勢、宜しく此を以て察を致すべし。
現代語訳
敵が背後にいるのは、兵法家が忌み嫌うところである。敵の充実したところを避けて手薄なところを突くのは、兵法家が好むところである。地の利の得失や防御の態勢は、この観点から十分に見極めるべきである。
解説
背後を取られることを嫌い、敵の実を避けて虚を突くことを好む。これは『孫子』虚実篇の「兵の形は実を避けて虚を撃つ」に基づく兵法の常識です。一斎はこれを裏返し、自分が守る側に立ったときの地の利と防御の形勢を見る物差しにせよと言います。つまり、自分の背後は空いていないか、敵から見て自分の虚はどこかを考えよということです。晩録のこのあたりは、海防が論じられ始めた時代を背景に、兵事を論じる条が続きます。攻める側の論理で自分の守りを点検するという発想は、組織のリスク管理にもそのまま通じます。相手の目で見たときの自分たちの弱点がどこにあるか、考えてみる材料になります。
この章句が説くこと
虚実兵法防御地の利リスク管理
関連する章句
-
孫子・形篇孫子曰く、昔の善く戦う者は、まず不可勝を為して、以て敵の可勝を待つ。
-
孫子・形篇勝たざるは己に在り、勝つは敵に在り。
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
葉隠・聞書第十一軍中防禦様(ぐんちゅうぼうぎょよう)の事。菱(ひし)など撒いても敵に疑はれ、計略も度々(たびたび)すれば疑(うたがい)出来(いでき)るなり。菱など一表(いっぴょう)蒔(ま)きても、敵疑を起すものなり。落穴(おとしあな)其外(そのほか)も同前(どうぜん)。
-
『呻吟語』内篇・談道・利刃もて木綿を斲る利刃もて木綿を斲り、迅炮もて風幟を擊つ。必ず害無からん。
-
『鬼谷子』中経語を却くとは、短を察し伺うなり。故に多ければ必ず數々短なる處有り。其の短を識りて之を驗す。動かすに忌諱を以てし、示すに時禁を以てす。其の人恐れ畏る。然る後に信を結びて以て其の心を安んじ、語を收め蓋い藏して之を却く。己の能わざる所を多方の人に見わす無かれ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る