言志四録 / 言志後録 第二百三十四条 孫子の詭道
昔人亦云。陰陽變化。使人不識其端倪。莊周謂之詭弔。孫子詭道即是。
新字:昔人亦云。陰陽変化。使人不識其端倪。荘周謂之詭弔。孫子詭道即是。
書き下し
昔人も亦云ふ、「陰陽の変化、人をして其の端倪を識らざらしむ」と。荘周は之を詭弔と謂ふ。孫子の詭道即ち是なり。
現代語訳
昔の人もまた「陰陽の変化は、人にその始まりも終わりも分からなくさせる」と言っている。荘周(荘子)はこれを「詭弔」と言った。孫子の言う「詭道」とは、まさにこれである。
解説
『孫子』計篇の「兵は詭道なり」は、戦いは相手をあざむくことだという意味でよく知られています。一斎はこれを、単なるだまし討ちの術ではなく、陰陽の変化のように端緒も行方も人に悟らせない、天地自然の変化の妙と結びつけて読みます。『荘子』斉物論篇の「弔詭」、つまり常識では測れない奇妙な道理も同じだと言います。易や陰陽の思想に通じた一斎らしく、兵法を天地の理の一つの表れとしてとらえ直しているのです。相手に手の内を読まれないことは、交渉や競争の場面でも意味を持ちます。ただしそれは嘘をつくことではなく、状況に応じて柔軟に変化できることだと考えると、この条の深さが見えてきます。
この章句が説くこと
兵法陰陽変化詭道
関連する章句
-
孫子・始計篇兵とは詭道なり。
-
孫子・始計篇能くしてこれを不能と示し、用いてこれを不用と示し、近くしてこれを遠しと示し、遠くしてこれを近しと示す。
-
孫子・始計篇利にしてこれを誘い、乱にしてこれを取り、実にしてこれに備え、強にしてこれを避け、怒にしてこれを撓し、卑にしてこれを驕らしめ、佚にしてこれを労し、親にしてこれを離す。
-
孫子・行軍篇兵怒りて相迎え、久しくして合わず、又相去らざるは、必ず謹んでこれを察すべし。
-
孫子・行軍篇敵近くして静かなる者は、其の険を恃むなり。遠くして戦いを挑む者は、人の進むを欲するなり。其の居る所の易なる者は、利あればなり。
-
『長短経』料敵敵来たりて新たに到り、行陣未だ定まらざるは、撃つべきなり。陣定まると雖も、人馬未だ食わざるは、撃つべきなり。長道を渉りて、後行未だ息わざるは、撃つべきなり。坂を行き険を渉り、半ば隠れ半ば出づるは、撃つべきなり。水を渉りて半ば渡るは、撃つべきなり。険道狭路は、撃つべきなり。旌旗乱れ動くは、撃つべきなり。陣数々動移するは、撃つべきなり。人馬数々顧みるは、撃つべきなり。凡そ此を見る者は、之を撃ちて疑うこと勿かれ。然れども兵なる者は、詭道なり。能にして之に不能を示し、用いて之に用いざるを示す。故に匈奴弱きを示して、漢祖に平城の囲み有り。石勒鋒を蔵して、王浚に幽州の陥り有り。即ち其の效なり。慎まざるべけんや。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る