言志四録 / 言志後録 第百九十四条 簡牘は慎まざるべからず
行遠傳後。莫如簡牘。雖一時應酬文字。必須愼重。不可苟且。寫訖審讀一過。而後封完。余嘗爲人作硯葢銘。曰。言語或侃。猶無形迹。簡牘弗愼。追悔叵革。謂此意也。
新字:行遠伝後。莫如簡牘。雖一時応酬文字。必須慎重。不可苟且。写訖審読一過。而後封完。余嘗為人作硯葢銘。曰。言語或侃。猶無形迹。簡牘弗慎。追悔叵革。謂此意也。
書き下し
遠きに行き後に伝ふるは、簡牘に如くは莫し。一時応酬の文字と雖も、必ず須らく慎重にすべし、苟且にすべからず。写し訖はらば審らかに読むこと一過して、而る後に封完す。余嘗て人の為に硯蓋の銘を作りて曰く、「言語は或は侃なるも、猶ほ形迹無し。簡牘慎まざれば、追悔革め叵し」と。此の意を謂ふなり。
現代語訳
遠方に届き、後世に伝わるものとしては、手紙や書き付けに及ぶものはない。その場限りのやり取りの文章であっても、必ず慎重にし、いいかげんにしてはならない。書き終えたら一度詳しく読み返し、それから封をする。私はかつて人のために硯箱の蓋に刻む銘を作って、「言葉は時に強く出ても、なお形として残らない。書いたものを慎まなければ、後で悔いても改めることはできない」と書いた。それはこの意味である。
解説
前条の文書作成の心得に続き、書いたものの重さを説いた一条です。話した言葉は消えますが、書いた文字は遠くへ届き、後の世まで残る。だからその場限りの手紙でも慎重に書き、書き終えたら必ず読み返してから封をせよと一斎は言います。人のために作った硯蓋の銘を引いて、口で言い過ぎても跡は残らないが、文書の不注意は悔いても取り返しがつかないと念を押しています。硯という書く道具そのものに戒めを刻むところに、一斎の用意の深さがうかがえます。メールやチャットで気軽に文字を残す今日こそ、送信前にもう一度読み返す習慣の意味は大きいでしょう。
この章句が説くこと
文書慎重言葉記録仕事術
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集法・一笑も輕がるしく人に假すべからず一字も輕がるしく人に與ふべからず、一言も輕がるしく人に語るべからず、一笑も輕がるしく人に假すべからず。
-
『酔古堂剣掃』集法・一言にして天地の和を傷る一念にして鬼神の忌みを犯し、一言にして天地の和を傷り、一事にして子孫の禍ひを釀す者有り、最も宜しく切に戒むべし。
-
論語・顔淵篇司馬牛、仁を問う。子曰く、「仁者は、其の言や訒し。」曰く、「其の言や訒しければ、斯れ之を仁と謂うか。」子曰く、「之を為すこと難し、之を言うこと訒きこと無きを得んや。」
-
『酔古堂剣掃』集法・口を開きて人を譏誚す口を開きて人を譏誚するは、是れ輕薄の第一件なり。惟だに德を喪ふのみならず、亦た身を喪ふに足る。
-
『酔古堂剣掃』集法・身を棄てんよりは酒を棄つるに如かず酒入れば舌出で、舌出づれば言失し、言失すれば身棄てらる。余以為へらく、身を棄てんよりは、酒を棄つるに如かず。
-
『酔古堂剣掃』集法・善く交はるの法言を受くること能はざる者には、輕がるしく一言を與ふべからず、此れは是れ善く交はるの法なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る