言志四録 / 言志後録 第百三十九条 標して宗旨と為す勿れ
學人各有得力處。擧與人看。固可。但主張太過。標以爲宗旨。則後必有弊。可虞也。
新字:学人各有得力処。挙与人看。固可。但主張太過。標以為宗旨。則後必有弊。可虞也。
書き下し
学人各力を得る処有り。挙げて人に与へて看せしむるは、固より可なり。但だ主張太だ過ぎ、標して以て宗旨と為せば、則ち後必ず弊有り。虞ふべきなり。
現代語訳
学ぶ人には、それぞれ力を得た(手応えをつかんだ)ところがある。それを取り上げて人に見せるのは、もちろんかまわない。だが、その主張が行き過ぎ、看板を掲げて宗旨(一派の教え)としてしまうと、後に必ず弊害が生じる。憂慮すべきことである。
解説
少し前の「弊を矯むるの説」の条と対をなす一条です。学ぶ人はそれぞれ、自分に効いた工夫、手応えをつかんだ要所を持っています。それを人に示すこと自体は悪くありません。しかし、それを強く主張しすぎて旗印に掲げ、一派の宗旨にしてしまうと、後に必ず弊害が出ると一斎は警告します。陽明学の「致良知」や朱子学の「居敬窮理」のように、ある人の体得が標語となり、後継者がその言葉だけを振りかざして本来の工夫を失う例を、一斎はよく知っていたのでしょう。自分の成功体験を組織の方法論として広めようとするとき、それが他の人にも当てはまるのか、標語だけが独り歩きしないかを考える材料になります。
この章句が説くこと
自得宗旨教条化学派成功体験
関連する章句
-
言志四録・言志後録 第百十九条 学は己の為にす弊を矯むるの説は、必ず復た弊を生ず。只だ当に学は己の為にするを知るべし。学は己の為にするを知る者は、必ず之を己に求む。是れ心学なり。力を得る処に至りては、則ち宜しく其の自得する所に任すべし。小異有りと雖も、大同を害せず。
-
言志四録・言志晩録 第五十七条 心即ち柁なり古人各々得力の処有り。挙げて以て指示するは、可なり。但だ其の入路各々異なり。後人透会して之を得ること能はず、乃ち受くる所に偏し、一を執りて以て宗旨と為し、終に流弊を生ずるに至る。余は則ち透会して一と為し、名目を立てざらんと欲す。蓋し其の名目を立てざる、即便ち我が宗旨なり。人或いは議して曰く「是くの如くんば則ち柁無きの舟の如く、泊する処を知らず」と。余謂ふ、心即ち柁なり。其の力を著くる処は、各人の自得に在りて、必ずしも同じからず。蓋し一を執りて百を廃すれば、却って泊する処を得ず。
-
言志四録・言志晩録 第五十六条 自得は畢竟己に在り自得は、畢竟己に在り。故に能く古人の得力の処を取りて之を鎔化す。今人は自得無し。故に鎔化も亦た能はず。
-
言志四録・言志録 第百六十六条 門戸を標榜するは人欲の私学を為して門戸を標榜するは、只是れ人欲の私なり。
-
言志四録・言志後録 第二百四十七条 道理は弁明し黙識す道理は弁明せざる可からず。而るに或いは声色を動かせば、則ち器の小なるを見る。道理は黙識せざる可からず。而るに徒らに光景を弄すれば、則ち狂禅に入る。
-
言志四録・言志録 第二百三十八条 異を好むの念を容れず先儒の経解の謬誤は、訂正せざるを得ず。但だ須らく已むを得ざるに出づべし。異を好むの念有るを容れず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る