言志四録 / 言志後録 第九十一条 箴は心の鍼
箴者。鍼也。心之鍼也。非幾纔動。即便箴之可也。至於增長。則得效或少矣。余好刺鍼。値氣體稍不清快。輙早刺心下十數鍼。則病未成而潰。因悟此理。
新字:箴者。鍼也。心之鍼也。非幾纔動。即便箴之可也。至於增長。則得効或少矣。余好刺鍼。値気体稍不清快。輙早刺心下十数鍼。則病未成而潰。因悟此理。
書き下し
箴は鍼なり、心の鍼なり。非幾纔かに動かば、即便ち之を箴して可なり。増長するに至れば、則ち効を得ること或は少なし。余鍼を刺すを好む。気体稍々清快ならざるに値へば、輒ち早く心下に十数鍼を刺す。則ち病未だ成らずして潰ゆ。因りて此の理を悟る。
現代語訳
箴(いましめの言葉)とは鍼(はり)であり、心に打つ鍼である。よくない兆し(非幾)がわずかに動いたら、すぐにこれをいましめるのがよい。それが大きく育ってしまうと、いましめても効き目は少なくなる。私は鍼を打つのを好む。体調が少しすっきりしないときには、すぐさま早めにみぞおちに十数本の鍼を打つ。すると病は形を成さないうちに散ってしまう。このことから、この道理を悟ったのである。
解説
「箴」と「鍼」が同じ音で、どちらも刺して正すものであることにかけた条です。心によくない兆しがわずかに動いたときにすぐ戒めれば効くが、育ってしまえば手遅れになる、と一斎は言います。その道理を、自ら鍼を好み、体調が少し優れないとすぐにみぞおちへ鍼を打って病を未然に散らしたという経験から悟ったというのが面白いところです。八十八歳まで長生きした一斎の養生の一端もうかがえます。先に見た「工夫は一念発動の上に在り」とも同じ趣旨で、心も体も初期対応がすべてだということです。組織の不和や小さな不正も、兆しの段階で手を打てばたやすく収まります。違和感を見過ごさずにすぐ向き合えているかを考えさせる一条です。
この章句が説くこと
箴戒め初期対応養生兆し
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