言志四録 / 言志後録 第九十二条 被褥の徳
人自嬰孩至老耋。恒受德於陰闇之中而不自知。是何物也。被褥枕席是也。有一先輩。甚敬被褥。必手展收之。不委之臧獲。其用心亦云厚矣。
新字:人自嬰孩至老耋。恒受徳於陰闇之中而不自知。是何物也。被褥枕席是也。有一先輩。甚敬被褥。必手展収之。不委之臧獲。其用心亦云厚矣。
書き下し
人嬰孩より老耋に至るまで、恒に徳を陰闇の中に受けて自ら知らず。是れ何物ぞや。被褥枕席是れなり。一先輩有り、甚だ被褥を敬し、必ず手づから之を展収し、之を臧獲に委ねず。其の用心も亦厚しと云ふ。
現代語訳
人は赤ん坊のときから年老いるまで、いつも暗がりの中で恩恵を受けながら、それに自分で気づかずにいる。それは何か。夜具と枕、敷物である。ある先輩がいて、たいそう夜具を大切にし、必ず自分の手で敷いたり片づけたりして、召使いに任せなかった。その心がけもまた手厚いものだと言えよう。
解説
人が一生の三分の一ほどを過ごす寝床に目を向けた、ほほえましくも鋭い一条です。布団や枕は、赤子から老人になるまで毎晩、暗がりの中で人を休ませ養ってくれるのに、誰もその恩を意識しません。ある先輩が夜具を敬い、召使いに任せず自分の手で敷き、たたんでいたという話を一斎は「用心厚し」と評します。次の条の「能く寝食を慎むは、孝なり」とも続く主題で、日常のありふれたものへの感謝と慎みが、そのまま心の修養になるという考え方です。目立たないところで自分を支えてくれている道具や人、仕組みに気づいているかどうかは、働く人の品格にも関わるのではないでしょうか。見えない支えへの感謝を思い出させてくれます。
この章句が説くこと
感謝恩日常慎み陰徳
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