言志四録 / 言志後録 第八十五条 月に背きて月を観る
艮爲篤實輝光。君子之象也。物之有實者。遠而益輝。近則狎之。不覺美也。面月而看月。不如背月而觀月。近花而看花。不如遠花而瞻花。
新字:艮為篤実輝光。君子之象也。物之有実者。遠而益輝。近則狎之。不覚美也。面月而看月。不如背月而観月。近花而看花。不如遠花而瞻花。
書き下し
艮を篤実輝光と為す、君子の象なり。物の実有る者は、遠くして益々輝き、近ければ則ち之に狎れて、美なるを覚えざるなり。月に面して月を看るは、月に背きて月を観るに如かず。花に近づきて花を看るは、花に遠ざかりて花を瞻るに如かず。
現代語訳
『易』では艮(山)を篤実で光り輝くものとし、これは君子のかたちである。中身の充実したものは、遠く離れるほどますます輝き、近くにいるとなれ親しんでしまって、その美しさに気づかない。月に向かって月を見るのは、月に背を向けて(照らされた景色の中に)月を感じるのに及ばない。花に近寄って花を見るのは、花から離れて遠く眺めるのに及ばない。
解説
『易』大畜卦の彖伝に「剛健篤実、輝光あり」とあり、その上卦である艮(山)の篤実さを、一斎は君子の姿になぞらえます。中身のある人や物は、近くにいると慣れてしまって良さが見えず、距離を置いたときにかえって輝いて見えるというのです。月に背を向けて見る月とは、月光に照らされた景色や水に映る影の中に月を感じることでしょう。直に見つめるより、その光が及ぶ範囲を見るほうが、月の大きさがわかります。身近な同僚や家族、長く続けてきた自分の仕事の価値も、少し離れてみて初めて見えることがあります。人を評価するときに、近すぎる距離が目を曇らせていないかを考えさせる一条です。
この章句が説くこと
篤実距離狎れ人を見る目君子
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