言志四録 / 言志後録 第五十一条 満腔子是れ惻隠の心
知滿腔子是惻隱之心。則知滿世界都爲惻隱之心。宇宙間只是一實。更無虧歉。
新字:知満腔子是惻隠之心。則知満世界都為惻隠之心。宇宙間只是一実。更無虧歉。
書き下し
満腔子是れ惻隠の心なるを知れば、則ち満世界都て惻隠の心たるを知る。宇宙の間は只だ是れ一実にして、更に虧歉無し。
現代語訳
自分の体いっぱいに満ちているのが惻隠の心(人の痛みを見過ごせない心)であると知れば、世界いっぱいがすべて惻隠の心であることがわかる。宇宙の間はただ一つの真実で満ちており、少しの欠けもない。
解説
北宋の程明道の「満腔子是れ惻隠の心」、体中が惻隠の心で満ちているという言葉を踏まえた一条です。惻隠の心は、孟子が仁の端緒とした、他者の痛みを見過ごせない心のことです。一斎は、自分の中の惻隠の心を本当に知れば、それは自分だけのものではなく、世界全体に満ちている同じ心だとわかると言います。そして宇宙はただ一つの「実」で満たされ、欠けたところがない、と結びます。天地万物を一体と見る宋明儒学の世界観を、一斎なりに言い表したものです。人を思いやる気持ちを個人の性格の問題ではなく、人と人をつなぐ共通の土台として捉え直す視点を与えてくれます。
この章句が説くこと
惻隠仁万物一体心
関連する章句
-
『都鄙問答』卷之一・播州ノ人學問ノ事ヲ問ノ段うるほすと云ことなり。身をうるほすは、心よりうるほすことを知るべし。孟子の一書も、心上より説来る。心を知る時は、志強義理照して、以て上達すべし。此心を知ずば、昏味とくらく放にして、学問に従と云とも、発明する所あるべからず。医書に、以手足痿痺為不仁。仁者は、天地万物を以て、一体の心となす。己に非と云ことなし。天地万物を己とすれば、至ざる所なし。若心を知らずば、天地と己と別々にして、気已に貫かず、手足の痿痺病人の如し。聖人は、我が心を以て天地万物を貫。凡て師たるもの、この心を知らずば、何を法として教、人の心を正んや。然るを師家に立人、心を知らずと云。夫は汝の在所などにて、書物を能読、文字を知て教れば、
-
『慎思録』巻之一学者居常、須らく温和慈愛を以て心と為すべし。便ち是れ善を為すの本にして、仁を以て心を存するなり。厳毅威武の如きは、須らく之を用ふるに時有るべし。居常の道に非ず。朱子曰く、須らく是れ慈祥和厚を本と為すべし。勇決剛果の如きは、無かるべからずと雖も、然れども之を用ふるに処所有りと。
-
『斉家論』下克く思ひ克く敬し、天君泰然にして、百体令に従ふ。不学者は見聞する所の欲にひかれ、固有せし仁心を見失ひ、これを求むる事をしらず。知らざれば、ことごとく不仁となる。不仁となるものを放心といふ。尤も色心は、愛より来るといへども、過ぐれば忽ち不仁となる。まづ放心の一二を挙げていはゞ、名聞と利欲と色欲なり。衆人はたとひ少々の善事をなせども、己を他より誉められたく思ふ心よりする善事なれば、実の善事にあらず。其の外身上の事、氏系図の事、或は芸能智恵に至るまで、己相応より宜しく思はれたき心有るは、皆名聞なり。又利欲といふは、道なくして金銀財宝をふやす事を好むより、心が闇く成りて、金銀有るがうへにも溜めたく思ひ、種々の謀をなし、
-
『呻吟語』外篇・天地・心は就ち是れ天なり心は就ち是れ天なり。心を欺くは便ち是れ天を欺くなり。心に事ふるは便ち是れ天に事ふるなり。更に須らく蒼蒼の上面に向かひて討むべからず。
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
『呻吟語』内篇・存心・心は天平のごとくならんことを要す心は天平のごとくならんことを要す。物を稱る時、物は忙しくして衡は忙しからず。物去る時、即ち懸空して此に在り。只だ恁く靜虛中正なれば、何等ぞ自在ならん。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る