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言志四録 / 言志録 第二百十条 雅楽の秘訣

雅樂秘訣。在聲音節奏之外。尋常伶工固不及知。唯大師或可與語。故孔子語之。聖人以天地萬物爲一體。故其所作之樂。亦自與天地同流。春氣始至。萬物向榮。見諸翕如。暢茂條達。大和畢呈。見諸純如。結實成形。條理明整。見諸皦如。剝落於外。胎孕於內。見諸繹如。葢其妙有與四時合其序者如是。唯夫子能知之。故語以洩其秘。不然。大師既是大師矣。聲音節奏。彼所熟講。雖夫子烏能倒誨之邪。

新字:雅楽秘訣。在声音節奏之外。尋常伶工固不及知。唯大師或可与語。故孔子語之。聖人以天地万物為一体。故其所作之楽。亦自与天地同流。春気始至。万物向栄。見諸翕如。暢茂条達。大和畢呈。見諸純如。結実成形。条理明整。見諸皦如。剥落於外。胎孕於内。見諸繹如。葢其妙有与四時合其序者如是。唯夫子能知之。故語以洩其秘。不然。大師既是大師矣。声音節奏。彼所熟講。雖夫子烏能倒誨之邪。

書き下し

雅楽の秘訣は、声音節奏の外に在り。尋常の伶工は固より知るに及ばず。唯だ大師のみ或いは与に語るべし。故に孔子之に語る。聖人は天地万物を以て一体と為す。故に其の作る所の楽も、亦自ら天地と流れを同じうす。春気始めて至り、万物栄に向かふは、諸を翕如に見る。暢茂条達して、大和畢く呈はるるは、諸を純如に見る。実を結び形を成し、条理明整なるは、諸を皦如に見る。外に剝落して、内に胎孕するは、諸を繹如に見る。蓋し其の妙、四時と其の序を合する者有ること是くの如し。唯だ夫子のみ能く之を知る。故に語りて以て其の秘を洩らす。然らずんば、大師既に是れ大師なり。声音節奏は、彼の熟講する所、夫子と雖も烏んぞ能く倒に之を誨へんや。

現代語訳

雅楽の秘訣は、声や音、節やリズムの外にある。普通の楽人にはもとより知ることができない。ただ大師(楽官の長)とだけは、あるいは共に語ることができる。だから孔子は(魯の)大師に語ったのである(『論語』八佾)。聖人は天地万物を一体とみなす。だから聖人の作った音楽もまた、おのずから天地と流れを同じくする。春の気がはじめて訪れ、万物が栄えに向かうさまは、「翕如(音が起こり合わさる)」に見られる。のびのびと茂り枝葉が伸び広がって、大いなる調和がことごとく現れるさまは、「純如(和らぎ調う)」に見られる。実を結び形をなして、筋目がはっきり整うさまは、「皦如(明らかに際立つ)」に見られる。外では葉が落ち、内では次の生命を宿すさまは、「繹如(絶えず続く)」に見られる。思うに、その妙が四季とその順序を合わせているのはこのようである。ただ孔子だけがこれを知っていた。だから語ってその秘訣を明かしたのである。そうでなければ、大師はすでに大師であり、声や音、節やリズムは彼が熟知し研究しているところである。孔子といえども、どうして逆に大師にそれを教えることなどできようか。

解説

『論語』八佾篇で孔子が魯の大師(楽官の長)に音楽を語った一節、「始め作すに翕如たり、之を従ちて純如たり、皦如たり、繹如たり」を独自に読み解いた一条です。専門家である大師に孔子が技術を教えるはずはない、だから孔子が語ったのは声や節奏の外にある秘訣だったのだと一斎は考えます。その秘訣とは、音楽の展開が春夏秋冬の移りと重なっていること。芽吹き、茂り、実り、落葉して内に次の命を宿す四季の順序が、翕・純・皦・繹の四つにそのまま対応するというのです。技術を極めた専門家にもなお伝えるべきものがあるとすれば、それは全体を貫く原理です。技能の先にある、仕事の本質や流れをどう捉えるかを考えさせる一条です。

この章句が説くこと

礼楽天地一体四時本質専門性

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