言志四録 / 言志録 第百十三条 鍋内の湯
鍋內之湯。蒸成烟氣。氣漏於外則湯減。以蓋塞之。則氣不能漏。化露滴下。湯乃不減。人能窒欲。則心身並得其養亦如此。
新字:鍋内之湯。蒸成烟気。気漏於外則湯減。以蓋塞之。則気不能漏。化露滴下。湯乃不減。人能窒欲。則心身並得其養亦如此。
書き下し
鍋内の湯、蒸して烟気と成る。気外に漏るれば則ち湯減ず。蓋を以て之を塞げば、則ち気漏るること能はず、化して露と為りて滴下し、湯乃ち減ぜず。人能く欲を窒げば、則ち心身並びに其の養ひを得ること、亦此くの如し。
現代語訳
鍋の中の湯は、熱せられて湯気となる。湯気が外に漏れれば湯は減る。蓋をしてこれをふさげば、湯気は漏れることができず、露に変わって滴り落ちるので、湯は減らない。人がよく欲をふさぐことができれば、心と身体がともに養われるのも、これと同じである。
解説
前条の草木の比喩に続いて、台所の鍋という身近な例で同じ道理を示した一条です。蓋をしなければ湯気は逃げて湯は減っていくが、蓋をすれば湯気は露となって鍋に戻り、湯は減らない。欲を窒ぐとは、生気を捨てることではなく、外に漏らさず内に循環させることだというのです。抽象的な議論を日常の光景で確かめる一斎の筆づかいがよく表れています。一斎自身、節度ある養生を重んじ、八十歳を超える長寿を保ちました。欲望や情熱を外に発散しきってしまうのでなく、内に蓄えて自分を養う力に変えることは、長く働き続けるうえでの体力と気力の配分を考える手がかりになります。
この章句が説くこと
窒欲養生心身比喩節度
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