言志四録 / 言志録 第八十五条 権は徳に在り
邦有道。則君與大臣讓權。權在於德。不在於力。邦無道。則君與大臣爭權。權在於力。不在於德。權在於德。則權不離於上。權在於力。則權遂歸於下。故爲政唯以德禮之爲尙。
新字:邦有道。則君与大臣譲権。権在於徳。不在於力。邦無道。則君与大臣争権。権在於力。不在於徳。権在於徳。則権不離於上。権在於力。則権遂帰於下。故為政唯以徳礼之為尚。
書き下し
邦に道有れば、則ち君と大臣と権を譲る。権は徳に在りて、力に在らず。邦に道無ければ、則ち君と大臣と権を争ふ。権は力に在りて、徳に在らず。権徳に在れば、則ち権上を離れず。権力に在れば、則ち権遂に下に帰す。故に政を為すには、唯だ徳礼を以て之れ尚しと為す。
現代語訳
国に道が行われているときは、君主と大臣とが権力を譲り合う。そのとき権力の拠りどころは徳にあって、力にはない。国に道が行われていないときは、君主と大臣とが権力を奪い合う。そのとき権力の拠りどころは力にあって、徳にはない。権力が徳に基づいていれば、権力は上の者から離れない。権力が力に基づいていれば、権力はついに下の者の手に移ってしまう。だから政治を行うには、ただ徳と礼とを何より尊ぶべきである。
解説
「邦に道有れば」「邦に道無ければ」は『論語』に繰り返し見える言い回しで、一斎はこれを権力の在り方に当てはめています。徳に拠る権力は譲り合うほど安定し、力に拠る権力は奪い合うほど下へ流れていく、という逆説が眼目です。力で押さえつける者は、より強い力を持つ者が現れれば簡単に取って代わられます。徳と礼による政治は、孔子の「之を道くに徳を以てし、之を斉ふるに礼を以てす」を踏まえたものでしょう。役職や権限で人を動かそうとしていないか、周囲が自ら従いたくなる拠りどころを持っているか、組織を率いる人が考えてみる価値のある一条です。
この章句が説くこと
為政徳治権力礼リーダーシップ
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『春秋左氏伝』昭公二十五年 楽しみて哀しむ二十五年春、叔孫婼宋に聘す。桐門の右師之に見ゆ。語りて宋の大夫を卑しみ、而して司城氏を賤しむ。昭子其の人に告げて曰く、「右師其れ亡びんか。君子は其の身を貴びて、而る後に能く人に及ぶ。是を以って禮有り。今夫子其の大夫を卑しみて、其の宗を賤しむ。是れ其の身を賤しむるなり。能く禮有らんや。禮無ければ必ず亡ぶ」と。宋公昭子を享し、新宮を賦す。昭子車轄を賦す。明日宴す。酒を飲みて樂しむ。宋公昭子をして右に坐せしめ、語りて相泣く。樂祁佐たり、退きて人に告げて曰く、「今茲君と叔孫と、其れ皆死せんか。吾之を聞けり、『哀しみを樂しみて樂しみを哀しむは、皆心を喪ふなり』と。心の精爽、是を魂魄と謂ふ。魂魄之を去らば、何を以って能く久しからん」と。季公若の姊、小邾の夫人と為り、宋の元夫人を生む。子を生み、以って季平子に妻(めあは)せんとす。昭子宋に如きて聘し、且つ之を逆ふ。公若從ひ、曹氏に謂ひて與ふる勿からしめんとす。魯將に之を逐はんとす。曹氏公に告ぐ。公樂祁に告ぐ。樂祁曰く、「之に與へよ。是の如くんば、魯君必ず出でん。政季氏に在ること三世なり。魯君政を喪ふこと四公なり。民無くして能く其の志を逞しくする者、未だ之れ有らざるなり。國君是を以って其の民を鎮撫す。詩に曰く、『人の云に亡ぶ、心の憂ひ』と。魯君民を失へり。焉んぞ其の志を逞しくするを得ん。靖んじて以って命を待たば猶ほ可なり。動かば必ず憂へん」と。
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