言志四録 / 言志録 第五十六条 酒は惰奢の媒
勤之反爲惰。儉之反爲奢。余思酒能使人生惰。又使人長奢。勤儉可以興家。則惰奢足以亡家。葢酒爲之媒也。
新字:勤之反為惰。倹之反為奢。余思酒能使人生惰。又使人長奢。勤倹可以興家。則惰奢足以亡家。葢酒為之媒也。
書き下し
勤の反を惰と為し、倹の反を奢と為す。余思ふに、酒は能く人をして惰を生ぜしめ、又人をして奢を長ぜしむ。勤倹以て家を興すべくんば、則ち惰奢以て家を亡ぼすに足る。蓋し酒之が媒と為るなり。
現代語訳
勤勉の反対は怠惰であり、倹約の反対は奢りである。私が思うに、酒は人に怠け心を生じさせ、また人の奢りを増長させる。勤勉と倹約によって家を興すことができるのなら、怠惰と奢りは家を滅ぼすのに十分である。思うに、酒がその仲立ちとなるのである。
解説
酒を論じた一連の条の締めくくりです。前の二条では酒の効用と限度を述べましたが、ここでは家の盛衰という視点から酒を見ています。家を興すのは勤と倹、滅ぼすのはその反対の惰と奢であり、酒はこの惰と奢の両方を育てる「媒」、つまり仲立ちになるというのです。酒そのものが家を滅ぼすのではなく、酒を通して怠けぐせと浪費ぐせが少しずつ身につくという見立てで、原因と結果の間にあるものを見ている点が鋭いところです。武家も商家も家の存続が何より大事だった時代の言葉ですが、個人の暮らしや小さな会社の経営にもそのまま通じます。自分や組織にとって、怠惰や浪費の入り口になっている習慣は何かを探してみたくなる一条です。
この章句が説くこと
勤倹怠惰奢侈酒家の盛衰
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