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学則 / 答屈景山書

余不佞髫年時。聞之先大夫。昔洛有惺窩先生者焉。其高第弟子若羅山活所諸公者五人。名聞海内。皆務以辨博相高。而屈先生者。獨爲溫厚請者。乃詘然於四人之間。退讓自將。不求名高其來東都。先大夫亦嘗一二接見云。夫儒者斷斷。自古爲然。而乃能爾者。千百人中一人耳。安得從其徒若子孫戚屬以聞其行誼之詳邪。藏諸中心。時時憶之弗忘。

新字:余不佞髫年時。聞之先大夫。昔洛有惺窩先生者焉。其高第弟子若羅山活所諸公者五人。名聞海内。皆務以弁博相高。而屈先生者。独為温厚請者。乃詘然於四人之間。退譲自将。不求名高其来東都。先大夫亦嘗一二接見云。夫儒者断断。自古為然。而乃能爾者。千百人中一人耳。安得従其徒若子孫戚属以聞其行誼之詳邪。蔵諸中心。時時憶之弗忘。

書き下し

余不佞、髫年の時、之を先大夫に聞く。昔洛に惺窩先生なる者有り。其の高第弟子、羅山・活所諸公の若き者五人、名海内に聞こゆ。皆務めて弁博を以て相高ぶる。而るに屈先生なる者は、独り温厚謹直なる者と為し、乃ち四人の間に詘然として、退譲自ら将ひ、名高を求めず。其の東都に来たるや、先大夫も亦た嘗て一二接見すと云ふ。夫れ儒者の断断たる、古より然りと為す。而るに乃ち能く爾る者は、千百人中の一人のみ。安んぞ其の徒若しくは子孫戚属に従ひて以て其の行誼の詳らかなるを聞くを得んや。諸を中心に蔵し、時時之を憶ひて忘れず。

現代語訳

私は幼い頃、亡父からこう聞いたことがある。昔、京都に惺窩先生(藤原惺窩)という人がいた。その高弟には林羅山・那波活所ら五人がおり、名は国中に知られ、みな博識と弁舌で互いに張り合っていた。ところが屈先生(堀杏庵)だけは温厚で慎み深い人で、四人の間で身を低くし、へりくだって自らを保ち、名声を求めなかった。江戸に来られたときには、父も一、二度お会いしたという。そもそも儒者が言い張って譲らないのは昔からのことで、それでいてこのようにできる人は千人百人に一人にすぎない。どうにかしてその門人や子孫・親族から、その行いの詳しいところを聞けないものかと、心の中にしまって、折にふれて思い出し忘れなかった。

解説

徂徠は幼い日に父から聞いた話を持ち出し、景山の祖先にあたる堀杏庵の人柄をたたえる。藤原惺窩の門下には林羅山らの俊秀が並び、博識と弁舌を競ったが、杏庵だけは退いて名を求めなかったという。儒者は自説を言い張るのが常で、譲れる人は千人に一人だと徂徠は言う。これは後に述べる「争わない学問」の伏線でもある。能力の高い人が集まる職場ほど、自分を押し出さない人の徳は目立ちにくいが、長く人の記憶に残るのはそういう人なのである。

この章句が説くこと

儒者謙譲徳学問藤原惺窩人柄

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