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福翁自伝 / 一身一家経済の由来・支那の文明、望むべからず

之を大きく論ずれば、彼の支那の事だ、支那の今日の有様を見るに、何としても満清政府をあの儘に存じて置て、支那人を文明開化に導くなんと云うことは、コリや真実無益な話だ。何は扨置き老大政府を根絶やしにして仕舞て、ソレから組立てたらば人心こゝに一変することもあろう。政府に如何なるエライ人物が出ようとも、百の李鴻章が出て来たって何にも出来はしない。その人心を新にして国を文明にしようとならば、何は兎もあれ、試みに中央政所を潰すより外に妙策はなかろう。之を潰して果して日本の王政維新のように旨く参るか参らぬか、屹と請合は難けれども、一国独立の為めとあれば試みにも政府を倒すに会釈はあるまい、国の政府か、政府の国か、このくらいの事は支那人にも分る筈と思う。

書き下し

之を大きく論ずれば、彼の支那の事だ、支那の今日の有様を見るに、何としても満清政府をあの儘に存じて置て、支那人を文明開化に導くなんと云うことは、コリや真実無益な話だ。何は扨置き老大政府を根絶やしにして仕舞て、ソレから組立てたらば人心こゝに一変することもあろう。政府に如何なるエライ人物が出ようとも、百の李鴻章が出て来たって何にも出来はしない。その人心を新にして国を文明にしようとならば、何は兎もあれ、試みに中央政所を潰すより外に妙策はなかろう。之を潰して果して日本の王政維新のように旨く参るか参らぬか、屹と請合は難けれども、一国独立の為めとあれば試みにも政府を倒すに会釈はあるまい、国の政府か、政府の国か、このくらいの事は支那人にも分る筈と思う。

現代語訳

これを大きく論じれば、あの支那のことです。今日の支那の有様を見るに、どうやっても満清政府をあのまま存続させておいて、支那人を文明開化に導くなどというのは、まったく本当に無益な話です。何はさておき老朽した大政府を根絶やしにして、それから組み立てるなら、人心がここで一変することもあるでしょう。政府にどんなに偉い人物が出ようとも、百人の李鴻章が出てきたところで何もできはしません。その人心を新たにして国を文明にしようというなら、何はともあれ、試みに中央政府を潰すよりほかに妙策はないでしょう。これを潰して果たして日本の王政維新のようにうまくいくかどうか、きっと請け合うことは難しいけれども、一国独立のためとあれば、試しにも政府を倒すのに遠慮はいらないはずです。国の政府か、政府の国か、このくらいのことは支那人にも分かるはずだと思います。

解説

福沢が隣国の改革について、かなり乱暴に言い切る一節です。有能な人物が一人二人現れても、組織の土台が古いままでは何も変わらない、人心を一新するには仕組みごと作り直すしかない、という主張です。背景には、日清戦争前後の清国の姿と、明治維新を成功例として見る福沢の自負があります。当時の言論としては強硬で、その点は割り引いて読む必要があります。ただ、人ではなく構造が成果を決めるという視点は、現代の組織改革にも通じます。優秀な個人を一人入れても、仕組みが変わらなければ成果は出ない、という経験は多くの職場にあるはずです。

この章句が説くこと

支那満清政府文明開化人心政府独立

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