童子問 / 卷下
問。先生所以深惡明鏡止水等語者。何哉。願詳見喩。曰。此語於聖人。不啻氷炭。實有生死之差。請以其所易見易喩者。而後詳論其理。凡聖賢之設譬。本甚精且嚴矣。葢道也。性也。心也。皆生物。而非死物也。故可以生物喩。而不可以死物比也。若以死物比之。則非翅引喩失當。必以邪爲正。認西爲東。其不錯人者鮮矣。何者。流水有源。而流行。活物也。止水無源而停蓄。死物也。故孟子以水取譬。常就流水爲言。而未甞有言以止水爲譬者也。嘗曰。人性之善也。猶水之就下也。人無有不善。水無有不下。又曰。若火之始然。泉之始達。又曰。流水之爲物也。不盈科不進。其意不亦明白乎。
新字:問。先生所以深悪明鏡止水等語者。何哉。願詳見喩。曰。此語於聖人。不啻氷炭。実有生死之差。請以其所易見易喩者。而後詳論其理。凡聖賢之設譬。本甚精且厳矣。葢道也。性也。心也。皆生物。而非死物也。故可以生物喩。而不可以死物比也。若以死物比之。則非翅引喩失当。必以邪為正。認西為東。其不錯人者鮮矣。何者。流水有源。而流行。活物也。止水無源而停蓄。死物也。故孟子以水取譬。常就流水為言。而未甞有言以止水為譬者也。嘗曰。人性之善也。猶水之就下也。人無有不善。水無有不下。又曰。若火之始然。泉之始達。又曰。流水之為物也。不盈科不進。其意不亦明白乎。
書き下し
問ふ、先生の明鏡止水等の語を深く悪む所以の者は、何ぞや。願はくは詳らかに喩へられよ、と。曰く、此の語は聖人に於て、啻に氷炭のみならず、実に生死の差有り。請ふ、其の見易く喩し易き所の者を以てして、而る後に詳らかに其の理を論ぜん。凡そ聖賢の譬へを設くるは、本甚だ精にして且つ厳なり。蓋し道や、性や、心や、皆生物にして、死物に非ざるなり。故に生物を以て喩ふべくして、死物を以て比すべからざるなり。若し死物を以て之に比せば、則ち翅に喩へを引くこと当を失ふのみに非ず、必ず邪を以て正と為し、西を認めて東と為し、其の人を錯らざる者鮮し。何となれば、流水は源有りて流行す、活物なり。止水は源無くして停蓄す、死物なり。故に孟子水を以て譬へを取るに、常に流水に就きて言を為し、未だ嘗て止水を以て譬へと為すと言ふ者有らざるなり。嘗て曰く、人性の善なるや、猶水の下きに就くがごとし。人善ならざること有る無く、水下らざること有る無し、と。又曰く、火の始めて然え、泉の始めて達するが若し、と。又曰く、流水の物たるや、科に盈たざれば進まず、と。其の意亦明白ならずや。
現代語訳
問う。先生が明鏡止水などの言葉を深く嫌うのは、なぜか。どうか詳しく教えてほしい。答える。この言葉は聖人の道に対して、氷と炭火ほど相容れないというだけでなく、実に生と死ほどの違いがある。まず見やすく分かりやすいもので示し、その後で詳しくその理を論じよう。およそ聖賢がたとえを設けるのは、もともときわめて精密で厳格である。思うに道も、性も、心も、みな生きた物であって、死んだ物ではない。だから生きた物でたとえることはできても、死んだ物になぞらえてはならない。もし死んだ物でなぞらえれば、たとえの引き方が的外れであるだけでなく、必ず邪を正とし、西を東と思い込み、人を誤らせないことはまれである。なぜなら、流れる水は源があって流れ行く、生きた物である。止まった水は源がなくてたまっている、死んだ物である。だから孟子が水でたとえを取るときは、つねに流れる水について言い、止まった水をたとえにしたことは一度もない。かつて「人の性が善であるのは、水が低い方へ流れるようなものである。人に善でない者はなく、水に低い方へ流れないものはない」と言った。また「火が燃え始め、泉が湧き出し始めるようなものである」と言った。また「流れる水というものは、くぼみを満たさなければ先へ進まない」と言った。その意味はまことに明白ではないか。
解説
この章句が説くこと
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