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童子問 / 卷下

問。予平生專用力於治經。而於史漢通鑑等書。未甞一過目其間。或謂必須讀史。或謂既明經何必讀史。如何。曰史者。治亂得失之林。不可不讀焉。詩書春秋。皆古聖人之史。故稱經史。苟不讀史書。則雖畧得通曉道理。然其智局促寡陋。反欠意思條暢。譬則人生長于遐陬僻壤。而不走通都大邑。周旋賢士大夫之間。觀風俗之美人物之雅者。鄕俗之習。終身不除。其智亦膚淺隘陋。動失措置。故語孟詩書既通之後。必不可不讀史。勿貪多。勿事强記。但於古今之大治亂大機會大成敗。及賢人君子讜論懿行。須歷歷記取。

新字:問。予平生専用力於治経。而於史漢通鑑等書。未甞一過目其間。或謂必須読史。或謂既明経何必読史。如何。曰史者。治乱得失之林。不可不読焉。詩書春秋。皆古聖人之史。故称経史。苟不読史書。則雖略得通暁道理。然其智局促寡陋。反欠意思条暢。譬則人生長于遐陬僻壤。而不走通都大邑。周旋賢士大夫之間。観風俗之美人物之雅者。郷俗之習。終身不除。其智亦膚浅隘陋。動失措置。故語孟詩書既通之後。必不可不読史。勿貪多。勿事強記。但於古今之大治乱大機会大成敗。及賢人君子讜論懿行。須歴歴記取。

書き下し

問ふ、予平生専ら力を経を治むるに用ひて、史漢通鑑等の書に於ては、未だ嘗て一たびも其の間に目を過ぎらず。或いは必ず須らく史を読むべしと謂ひ、或いは既に経を明らかにせば何ぞ必ずしも史を読まんと謂ふ。如何、と。曰く、史は治乱得失の林なり。読まざるべからず。詩・書・春秋は、皆古の聖人の史なり。故に経史と称す。苟も史書を読まざれば、則ち略々道理に通暁することを得と雖も、然も其の智局促寡陋にして、反つて意思条暢を欠く。譬へば則ち人遐陬僻壌に生長して、通都大邑に走り、賢士大夫の間に周旋して、風俗の美、人物の雅なる者を観ざれば、郷俗の習ひ、終身除かれず、其の智も亦膚浅隘陋にして、動もすれば措置を失ふがごとし。故に語孟詩書既に通ずるの後は、必ず史を読まざるべからず。多きを貪ること勿かれ。強記を事とすること勿かれ。但古今の大治乱・大機会・大成敗、及び賢人君子の讜論懿行に於ては、須らく歴歴として記取すべし。

現代語訳

問う。私は日ごろもっぱら経書の研究に力を注ぎ、『史記』『漢書』『資治通鑑』などの書物には、一度も目を通したことがない。ある人は必ず歴史を読まなければならないと言い、ある人はすでに経書に通じていれば歴史を読む必要はないと言う。どうか。答える。歴史は治乱得失の事例が集まった林である。読まないわけにはいかない。『詩経』『書経』『春秋』は、みな古の聖人の歴史である。だから経史と並べて称する。もし歴史書を読まなければ、道理にほぼ通じることはできても、その知恵は狭苦しく貧しく、かえってのびやかな思考を欠く。たとえば人が辺鄙な田舎に生まれ育ち、大きな都会に出て賢い士人や大夫の間を行き来し、風俗の美しさや人物の雅やかさを見ることがなければ、田舎の習わしが一生抜けず、その知恵も浅く狭くて、何かにつけて対処を誤るようなものである。だから『論語』『孟子』『詩経』『書経』にすでに通じた後は、必ず歴史を読まなければならない。多く読むことを欲張ってはならない。暗記に努めてはならない。ただ古今の大きな治乱、大きな転機、大きな成功と失敗、および賢人君子の正しい議論や立派な行いについては、はっきりと記憶しておかなければならない。

解説

経書だけを学び史書を読まない者に、仁斎は歴史を読む必要を説く。史は治乱得失の林であり、詩書春秋もまた聖人の史なのだという。道理だけを知っていても、実際の事例に触れていなければ、知恵は狭く、思考はのびやかさを欠く。田舎で育ち都の人物や風俗に接したことのない人にたとえるのは、経験の幅が判断の質を左右するという指摘である。ただし多くを貪ったり丸暗記したりせず、大きな治乱や転機、成敗、賢人の言行を押さえよと要点を絞る。原理原則を学んだ人ほど、具体的な歴史の事例で判断力を鍛える必要があると教える章である。

この章句が説くこと

読史経史学問智歴史事例

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