童子問 / 卷下
問。讀書。以何爲要。曰。識見爲要。讀書無識見。猶不讀也。苟要得識見。當尋其所歸宿。勿徒涉獵。須如在外者之求歸家。不可如迷子之行道路。在外者之歸家也。不由迂途。不省外事。一步急一步。一行速一行。携凡囊橐資糧途中不可少之具。而一箇不齎無用之長物。讀書者。亦須如作歸計。先辨其有用無用。取其關學術政躰。脩己治人之切要者。而其泛然不切。無益實用者。闕之可矣。古人之書。或有議論可聞。而不可施之實用者。或有宜于古。而不宜于今者。或有宜于彼。而不宜于此者。要一一躰察。不可放過。如此用工夫。則讀一卷書。斯一卷便爲己之用。讀十卷書。斯十卷便爲己之用。乃至數百千卷。皆然。迷子之在途也。不識東西。不分南北。從面信脚。行行不已。茫然而立。偃然而憩。卒不知其家之在何處。今之讀書者。不辨有用無用。欲貪多鬭靡。至僻書奇編祕記奧牒。索搜無遺。雖有數行倶下。積以數寸之捷。顧其所成。卒爲無識見之人。雖有數十卷著作。然無許大議論足以貽後世者。況於羽翼聖經。黼黻國家。則有萬里之阻。豈足稱讀書乎。今之讀書者。奚以異迷子之行道路也。噫。
新字:問。読書。以何為要。曰。識見為要。読書無識見。猶不読也。苟要得識見。当尋其所帰宿。勿徒渉猟。須如在外者之求帰家。不可如迷子之行道路。在外者之帰家也。不由迂途。不省外事。一歩急一歩。一行速一行。携凡嚢橐資糧途中不可少之具。而一箇不齎無用之長物。読書者。亦須如作帰計。先弁其有用無用。取其関学術政体。脩己治人之切要者。而其泛然不切。無益実用者。闕之可矣。古人之書。或有議論可聞。而不可施之実用者。或有宜于古。而不宜于今者。或有宜于彼。而不宜于此者。要一一体察。不可放過。如此用工夫。則読一巻書。斯一巻便為己之用。読十巻書。斯十巻便為己之用。乃至数百千巻。皆然。迷子之在途也。不識東西。不分南北。従面信脚。行行不已。茫然而立。偃然而憩。卒不知其家之在何処。今之読書者。不弁有用無用。欲貪多闘靡。至僻書奇編秘記奥牒。索捜無遺。雖有数行倶下。積以数寸之捷。顧其所成。卒為無識見之人。雖有数十巻著作。然無許大議論足以貽後世者。況於羽翼聖経。黼黻国家。則有万里之阻。豈足称読書乎。今之読書者。奚以異迷子之行道路也。噫。
書き下し
問ふ、書を読むは何を以て要と為す、と。曰く、識見を要と為す。書を読みて識見無きは、猶読まざるがごときなり。苟も識見を得んことを要せば、当に其の帰宿する所を尋ぬべし。徒に渉猟すること勿かれ。須らく外に在る者の家に帰るを求むるが如くすべし。迷子の道路を行くが如くすべからず。外に在る者の家に帰るや、迂途に由らず、外事を省みず、一歩は一歩より急に、一行は一行より速やかなり。凡そ嚢橐資糧、途中に少くべからざるの具を携へて、一箇も無用の長物を齎さず。書を読む者も、亦須らく帰計を作すが如くすべし。先づ其の有用無用を弁じ、其の学術政体、修己治人の切要に関はる者を取りて、其の泛然として切ならず、実用に益無き者は、之を闕きて可なり。古人の書、或いは議論聞くべくして之を実用に施すべからざる者有り、或いは古に宜しくして今に宜しからざる者有り、或いは彼に宜しくして此に宜しからざる者有り。要は一一体察して、放過すべからず。此くの如く工夫を用ふれば、則ち一巻の書を読めば、斯の一巻便ち己の用と為り、十巻の書を読めば、斯の十巻便ち己の用と為る。乃ち数百千巻に至るまで、皆然り。迷子の途に在るや、東西を識らず、南北を分かたず、面に従ひ脚に信せ、行き行きて已まず、茫然として立ち、偃然として憩ひ、卒に其の家の何れの処に在るかを知らず。今の書を読む者は、有用無用を弁ぜず、多きを貪り靡を闘はさんと欲し、僻書奇編秘記奥牒に至るまで、索捜して遺すこと無し。数行倶に下ると雖も、積むに数寸の捷を以てすとも、其の成す所を顧みれば、卒に識見無きの人と為る。数十巻の著作有りと雖も、然も許大の議論の以て後世に貽すに足る者無し。況んや聖経を羽翼し、国家を黼黻するに於ては、則ち万里の阻て有り。豈に書を読むと称するに足らんや。今の書を読む者、奚を以てか迷子の道路を行くに異ならんや。噫。
現代語訳
問う。書物を読むには何を要とすべきか。答える。識見を要とする。書物を読んで識見がなければ、読まないのと同じである。もし識見を得ようとするなら、その行き着く所を尋ねなければならない。むやみにあれこれ読みあさってはならない。旅に出ている者が家に帰ろうとするようでなければならない。迷子が道を歩くようであってはならない。旅先の者が家に帰るときは、回り道をせず、ほかの用事に目もくれず、一歩ごとに急ぎ、一行程ごとに速くなる。袋や旅費や食糧など、途中で欠かせない用具は持っていくが、無用のがらくたは一つも持たない。書物を読む者も、帰りの計画を立てるようでなければならない。まずその書が役に立つか立たないかを見分け、学術や政治のあり方、己を修め人を治めることに切実にかかわるものを取り、漠然として切実でなく実用に益のないものは、省いてよい。古人の書には、議論としては聞く価値があっても実用に施せないものもあり、昔には適していても今には適さないものもあり、あちらには適していてもこちらには適さないものもある。要するに一つ一つ身をもって見きわめ、見過ごしてはならない。このように工夫すれば、一巻の書を読めばその一巻がそのまま自分の役に立ち、十巻の書を読めばその十巻がそのまま自分の役に立つ。数百、数千巻に至るまで、みなそうである。迷子が道にあるときは、東西もわからず、南北も区別できず、顔の向くまま足の向くまま、歩きに歩いてやまず、ぼんやりと立ち、ごろりと休み、ついに自分の家がどこにあるのかわからない。今の読書人は、役に立つか立たないかを見分けず、多く読むことを欲張り、華やかさを競おうとして、珍しい書や奇書、秘伝の記録や奥深い文書に至るまで探し求めて残すところがない。一度に数行を読み下すほどの速さで、数寸の厚さに読み積んだとしても、その成果を顧みれば、結局は識見のない人になってしまう。数十巻の著作があっても、後世に残すに足る大きな議論はない。まして聖人の経書を助け、国家を飾り整えることについては、万里も隔たっている。どうして読書と称するに足りようか。今の読書人は、迷子が道を歩くのとどこが違おうか。ああ。
解説
この章句が説くこと
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人物志・體別夫れ學は材を成す所以なり、疏は情を推す所以なり。偏材の性は、移轉すべからず。
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論語・為政篇子曰く、異端を攻むるは、斯れ害のみ。
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説苑・建本子思曰わく、学は才を益す所以なり、礪は刃を致す所以なり。吾嘗て幽処して深く思うも、学の速やかなるに若かず。吾嘗て跂ちて望むも、高きに登りて博く見るに若かず。故に風に順いて呼べば、声疾しきを加えざれども聞く者衆し。丘に登りて招けば、臂長きを加えざれども見る者遠し。故に魚は水に乗り、鳥は風に乗り、草木は時に乗る。
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