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童子問 / 卷下

問蔡氏書傳所載渾天儀之制。曰。不知也。問春秋春王正月之辨。曰。不知也。童子云。聞先生自幼留心經學。今於此二事不知者。何哉。曰。學有本有末。有必不可不知者矣。有在所不必知者矣。若學術政躰修己治人之術。是本必不可不知焉。其他進而不足以治人。退而不足以修己者。雖不知之無害。渾天儀之制。是有司之所掌。春王正月之辨。亦無益於學術。故左氏亦不傳焉。大凡支干孤虛旺相律呂隔八相生之屬。皆然。附之好陰陽數學者可矣。非儒者之先務。今世之小子。不知爲學之法。區區留心此等細務。甚不可也。

新字:問蔡氏書伝所載渾天儀之制。曰。不知也。問春秋春王正月之弁。曰。不知也。童子云。聞先生自幼留心経学。今於此二事不知者。何哉。曰。学有本有末。有必不可不知者矣。有在所不必知者矣。若学術政体修己治人之術。是本必不可不知焉。其他進而不足以治人。退而不足以修己者。雖不知之無害。渾天儀之制。是有司之所掌。春王正月之弁。亦無益於学術。故左氏亦不伝焉。大凡支干孤虚旺相律呂隔八相生之属。皆然。附之好陰陽数学者可矣。非儒者之先務。今世之小子。不知為学之法。区区留心此等細務。甚不可也。

書き下し

問ふ、蔡氏の書伝に載する所の渾天儀の制。曰く、知らざるなり。問ふ、春秋の春王正月の弁。曰く、知らざるなり。童子云ふ、聞く、先生幼より心を経学に留むと。今此の二事に於て知らざる者は、何ぞや。曰く、学に本有り末有り。必ず知らざるべからざる者有り。知るを必せざる所に在る者有り。学術・政体・己を修め人を治むるの術のごときは、是れ本にして必ず知らざるべからず。其の他、進んでは以て人を治むるに足らず、退いては以て己を修むるに足らざる者は、之を知らずと雖も害無し。渾天儀の制は、是れ有司の掌る所。春王正月の弁も、亦学術に益無し。故に左氏も亦伝へず。大凡支干・孤虚・旺相・律呂・隔八相生の属、皆然り。之を陰陽数学を好む者に附して可なり。儒者の先務に非ず。今世の小子、学を為むるの法を知らず。区区として心を此れ等の細務に留む。甚だ不可なり。

現代語訳

問う。蔡沈の『書集伝』に載っている渾天儀の仕組みについて。答える。知らない。問う。春秋の「春王正月」の解釈の論争について。答える。知らない。童子が言う。先生は幼いころから経学に心を傾けてこられたと聞いている。それなのにこの二つのことを知らないとはどうしてか。答える。学問には本と末がある。必ず知らねばならないことがあり、必ずしも知らなくてよいことがある。学問の方法、政治の体制、己を修め人を治める術などは本であって、必ず知らねばならない。そのほか、進んでは人を治めるのに役立たず、退いては己を修めるのに役立たないことは、知らなくても害はない。渾天儀の仕組みは担当の役人がつかさどることであり、春王正月の論争も学問に益がない。だから左氏もこれを伝えていない。およそ十干十二支・孤虚・旺相・律呂・隔八相生の類もみな同じである。陰陽や数術を好む者に任せておけばよい。儒者がまず努めるべきことではない。今の若者は学問の方法を知らず、こまごまとこうした細かな事柄に心をとめている。まったくよくない。

解説

天文器械の仕組みや春秋の暦法論争を問われ、仁斎は二度とも「知らない」と答える。経学に通じた学者がなぜ知らないのかと驚く童子に対し、学には本末があり、己を修め人を治めることに役立たない知識は知らなくても害はないと言い切る。渾天儀は担当の役人の領分であり、干支や律呂の数理は好む者に任せればよいというのである。知らないことを知らないと言える潔さと、優先順位の明確さがよく表れた章である。情報があふれる今、何でも知っておこうとするより、自分の役割にとっての本と末を見定め、本に時間を注ぐことが、学び続ける人の力になる。

この章句が説くこと

学問本末修己治人先務知識経学

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