童子問 / 卷中
問。唯心學之名。似乎無害。不知以爲如何。曰。心學之稱。亦自禪學來。禪家自以其法名心宗。性學之號亦然。葢理學者流。以其非記誦詞章之學。創建斯名。以標榜于世。然實非聖人之意也。禪者本不知本然之德。硬就己心上用功。後世儒者雖知由本然之德。而其工夫郤亦就一心上見道。遂以心學稱之。殊不知人具斯形。則必有斯心。自聖人至于愚夫愚婦。一也。本非貴。亦非賤。故聖人言德而不言心。其千言萬語。皆莫非所以使人由本然之德也。孟子雖屢言心。亦皆指仁義之良心而言。所謂本心恒心是也。葢聖人從天下上見道。佛者從一身上見道。從天下上見道。故見天下所同然之理。所以貴德而不貴心也。從一身上見道。所以知心而不知德也。故其學自霄壤。而卒至離人倫。可不察耶。
新字:問。唯心学之名。似乎無害。不知以為如何。曰。心学之称。亦自禅学来。禅家自以其法名心宗。性学之号亦然。葢理学者流。以其非記誦詞章之学。創建斯名。以標榜于世。然実非聖人之意也。禅者本不知本然之徳。硬就己心上用功。後世儒者雖知由本然之徳。而其工夫郤亦就一心上見道。遂以心学称之。殊不知人具斯形。則必有斯心。自聖人至于愚夫愚婦。一也。本非貴。亦非賤。故聖人言徳而不言心。其千言万語。皆莫非所以使人由本然之徳也。孟子雖屡言心。亦皆指仁義之良心而言。所謂本心恒心是也。葢聖人従天下上見道。仏者従一身上見道。従天下上見道。故見天下所同然之理。所以貴徳而不貴心也。従一身上見道。所以知心而不知徳也。故其学自霄壤。而卒至離人倫。可不察耶。
書き下し
問ふ、唯だ心学の名は、害無きに似たり。知らず以て如何と為す。曰く、心学の称も、亦禅学より来たる。禅家自ら其の法を以て心宗と名づく。性学の号も亦然り。蓋し理学者流、其の記誦詞章の学に非ざるを以て、斯の名を創建し、以て世に標榜す。然れども実は聖人の意に非ざるなり。禅者は本本然の徳を知らず、硬く己が心上に就いて功を用ふ。後世の儒者は本然の徳に由ることを知ると雖も、其の工夫は却つて亦一心上に就いて道を見る。遂に心学を以て之を称す。殊に知らず、人斯の形を具ふれば、則ち必ず斯の心有り、聖人より愚夫愚婦に至るまで、一なり。本貴きに非ず、亦賤しきに非ず。故に聖人は徳を言ひて心を言はず。其の千言万語、皆人をして本然の徳に由らしむる所以に非ざる莫きなり。孟子屡々心を言ふと雖も、亦皆仁義の良心を指して言ふ。所謂本心・恒心、是れなり。蓋し聖人は天下の上より道を見、仏者は一身の上より道を見る。天下の上より道を見る、故に天下の同じく然る所の理を見る。徳を貴びて心を貴ばざる所以なり。一身の上より道を見る、心を知りて徳を知らざる所以なり。故に其の学自ら霄壌にして、卒に人倫を離るるに至る。察せざるべけんや。
現代語訳
問う。心学という名だけは、害がないように思われる。どうお考えか。答えていう。心学という呼び名もまた禅学から来ている。禅家は自らの法を心宗と名づけた。性学という呼び名もまたそうである。思うに理学者の流れは、自分たちの学問が記憶や詩文の学ではないことを示すために、この名をこしらえて世に掲げたのである。しかし実は聖人の意ではない。禅者はもともと本然の徳を知らず、ひたすら自分の心の上で工夫をする。後世の儒者は本然の徳に由ることを知ってはいても、その工夫はやはり一つの心の上で道を見ようとする。そうしてついに心学と称するに至った。まったくわかっていない。人がこの形を備えれば必ずこの心があり、聖人から愚かな男女に至るまで同じである。もともと貴いものでもなく、賤しいものでもない。だから聖人は徳を語って心を語らなかった。その千言万語は、みな人を本然の徳に由らせるためのものでないものはない。孟子はしばしば心を語ったが、それもみな仁義の良心を指して言ったのであって、いわゆる本心や恒心がそれである。思うに、聖人は天下という場から道を見、仏者は一身という場から道を見る。天下から道を見るので、天下が同じくそうである理が見える。徳を貴んで心を貴ばない理由である。一身から道を見るので、心を知って徳を知らないのである。だからその学問はおのずと天と地ほども隔たり、ついには人倫を離れるに至る。察しないでよかろうか。
解説
この章句が説くこと
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